ヒノキ林の下層植生の回復を考える

(岐阜県森林研究所) 渡邉仁志



【ヒノキ人工林と下層植生と表土流亡の切っても切れない関係】

ヒノキ一斉人工林には、壮齢以降の過密化にともない、下層植生が衰退し表土流亡(表層土壌の流出)が発生しやすくなるという、防災上、林地保全上の問題があります。

この表土流亡は、地上数十cmまでの林床被覆が少ない林分で発生しやすいといわれています。したがって、その危険性は、林床がササ・シダ類、草本や背の低い木本で覆われている場合に低く、植生が少ない場合や低木(シロモジやヒサカキなど5m程度の木本)だけの場合に高まります。

表土流亡の予防法は、早め早めの間伐で林床を十分な明るさに保ち、下層植生を絶やさないよう管理することに尽きます。しかし、現実には間伐が遅れがちな人工林は多く、これらの林分では既に下層植生が衰退している可能性が高いと考えられます。また、こうした林分では、再び植生を発達させるのは困難で、通常の定性間伐(通常間伐)では効果がなかった事例もみられます。

当研究所は、これまでに表土流亡の実態や植生との関係、間伐木を利用した表土流亡の対症療法を報告してきました。ここでは過密になり下層植生が衰退してしまった林分の治療方法(間伐)を考えます。



【下層植生を回復するための間伐方法】

下層植生を豊かにするには、間伐により林床を十分に明るくすることが必要です。ただ、過密林分でいきなり強度な間伐を行うことは、気象害のリスクを高めます。そこで、ここではメリハリをつけた間伐(群状間伐)を考えてみます。通常間伐に群状伐採(何本かをまとめた伐採)を組み合わせ、スポット的に明るい場所をつくり、まずはそこを植生回復の拠点にしようという方法です。

この方法の効果を検証するために、壮齢ヒノキ林内(四箇所)に間伐方法を変えた試験地をつくり、経過を観察しました。すると間伐後、草本層の植被率(*)は、多くの試験地で高まりました(写真)。

また、植被率は同じ林分に設置した通常間伐区(本数間伐率38〜41%)よりも群状間伐区(同34〜44%)で高くなりました(図)。これは、群状間伐区の伐採区内が通常間伐区より明るくなったためと考えられます。また、群状間伐で強度に伐採するのは林分の一部なので、通常間伐と比べても林分全体の間伐率が極端に高くなることはありませんでした。

(*) 下層植生が林床を覆っている割合。下層植生の豊かさを示します。

間伐試験地における下層植生の回復経過
間伐試験地における下層植生の回復経過



群状間伐区の間伐前(左)、間伐5年後(右)の林床の状況
群状間伐区の間伐前(左)、間伐5年後(右)の林床の状況


つまり、群状間伐は通常間伐よりも植生回復の効果が高く、林分全体では強度間伐よりも林内環境の変化がおだやかな手法であるといえそうです。また、伐採区を拠点にすることで、次の間伐後もより植生が回復しやすくなるでしょう。

間伐後8年が経過し、試験地では低木の背丈が再び高くなったり、林冠の再閉鎖により先駆性の種が衰退したりしはじめました。今後は群状間伐の伐採区の大きさやその配置、間伐の間隔(繰り返しスケジュール)などを検討していきます。