伐採して初めて気づくヒノキ根株心腐病被害

(岐阜県森林研究所) 大橋章博



はじめに

根株心腐病と言えば、カラマツでは非常に有名な病害ですが、ヒノキではあまり耳なじみがないかもしれません。実際には、ヒノキの被害は古くから知られており、1927年に鹿児島県で初めて確認されています。
 西南日本の温暖な地域で問題となる病害と考えられてきましたが、最近になり、岐阜県でも美濃市や山県市でも被害が確認されました。
 防除対策を考える上で、被害の実態を把握しておくことは非常に重要です。しかし、岐阜県内にどの程度被害があるのか、そもそも問題となるような被害なのか、など被害状況は全く判っていません。
 そこで、まずは、ヒノキ根株心腐病について知っていただき、例えば、「あそこで被害を見た」といった情報で構いません、提供していただければ、今後研究を進める上でとても助かります。皆様からの情報提供をお願いします。


被害の特徴

本病は名前の通り、根株および地上部の心材部を腐朽させる病害です。腐朽は地際から地上高2〜3mに達することもあり、最も材積が大きい元玉部分がほとんど利用できなくなるので、経済的な損失は大きくなります。被害初期には不規則な淡褐色の変色が形成され、やがて腐朽となります。それぞれの腐朽部が拡大してつながり、大きな腐朽へと進展します(写真1)。さらに腐朽が進むと空洞化することもあります(写真2)。また、林齢が高くなるに従って、被害率、腐朽高、腐朽断面積が高くなります。
 厄介なことに、被害は心材に限られるため、外見から被害の有無を区別することはできません。また、被害を受けても木が枯れることがないので、間伐や主伐をして初めて被害に気がつくことがほとんどです。
 近年、長伐期化の傾向にあり、今後、被害の拡大が危惧されます。

写真1 腐朽部にはフラス状物がみられる
写真1 腐朽部にはフラス状物がみられる


写真2 腐朽部が空洞化した被害木
写真2 腐朽部が空洞化した被害木

病原菌は?

被害を引き起こす病原菌は一種類ではなく、キゾメタケ、マツノネクチタケ、レンゲタケ、エゾノサビイロアナタケ、キンイロアナタケなど多くの種類が知られています。
 病原菌は根にできた傷から侵入します。その傷の原因は様々で、多くの場合は根腐れ等によって壊死した根から侵入します。このほかに、コガネムシ幼虫による食害痕やニホンジカの剥皮害、林内作業車によってできた傷から侵入した事例が報告されています。また、一部の菌では、被害木の根系と接触した部分から隣接木へ感染することが確認されています。


被害対策は?

今、各地で間伐が積極的に実施されており、被害の有無を知るには絶好の機会です。スギノアカネトラカミキリによる飛び腐れ被害と違って、伐根をみるだけで被害の有無が判別できます。
 間伐して被害に気づきながら(こうした被害を知らずに)、そのままにしておけば、被害は拡大し、主伐時の損失は非常に大きなものとなってしまいます。
 被害が認められた場合、その林分では長伐期施業を避けて主伐時のリスクを下げること、腐朽が垂直方向に進展することを見越して枝打ち高を高くするといった対策が必要です。また、被害率が高い場合は、罹病しにくい樹種へ転換することも考える必要があります。