大型林業機械の林内走行による森林土壌への影響

(岐阜県森林研究所) 古川 邦明



ここ数年、県内への大型林業機械の導入が進みました。作業道の開設も各地で行われ、作業道沿いの傾斜が緩やかなところでは、直接森林内に入って木寄せを行う事もあるのではないでしょうか。

ドイツフォレスターを招いての森林づくり研修会が各地で行われていますが、彼らは林内を大型林業機械等の重機(以下重機)が走行することによる土壌への悪影響について警告しています。県内では、直接重機を乗り入れられる場所は限られていますし、少々重機が走った程度で、森林土壌に大きな問題が発生するとはあまり考えていませんでした。

ところが、昨年、重機等で皆伐跡地に植栽した苗が集団的に枯れたとの情報がありました。森林研で調査したところ、重機を林内に乗り入れて搬出したことによる土壌 の締め固めが原因の一つであることが判りました。



【現場の様子】

現地の地形は、傾斜が全域15度以下の緩やかな場所です。作業路は開設せず、グラップルローダが林内に入って材を林道まで搬出していました。その跡地にヒノキを植栽したところ、1年目にまとまって枯れたとのことでした(写真)。グラップルローダの走行跡に植栽したヒノキはほぼ全て枯れていましたが、それ以外の苗はほとんど枯れていませんでした。枯れたところをグラップルローダが何回走行したかは不明ですが、集材範囲は約0.9ha、搬出された素材材積は約400m3でした。



【調査内容】

走行跡(以下、走行区)と、それ以外の区域(以下、非走行区)、及び事業地に隣接し伐採時と同じ林相と思われる林内に対照区を設定し、土壌支持力と土壌の理学性について調査しました。
○土壌支持力測定
貫入式土壌硬度計を用いて,走行区と非走行区の各11点の土壌支持力を2.5cm毎に深さ60cmまで測定しました。
○土壌理学性調査
走行区と非走行区の各6箇所,対照区2箇所の土壌深10cmと20cmから土壌を採取し,土壌の密度や,孔隙量など、土壌の状態を計測しました。



【結果】

土壌支持力の計測結果を図-1に示します。重機の繰り返し走行によって,土壌が締め固められ,走行区では貫入抵抗が大きくなっているだろうと予想しましたが,非走行区との差は認められませんでした。

土壌の孔隙量の計測結果を図-2に示します。走行区では,深さ10cm,20cmともに,粗孔隙が減少し細孔隙量が増加していました。特に走行区の20cm深では,粗孔隙量が非走行区の50%程度となっていました。

土壌の粗孔隙は、雨水の浸透性や土壌への酸素の供給に重要な役割を持っています。重機が繰り返し走行したことによりこの粗孔隙が減少、苗の成育に必要な土壌条件が悪化し、さらに昨夏の猛暑も加わって枯れてしまったものと思われました。走行区では天然の植生も貧弱で、高木性の樹種の稚樹等もほとんど見られませんでした。



【おわりに】

これから路網開設による伐出が主流となると、比較的平坦な森林では重機が林内に入って集材する事例が増えてくると思われます。森林の状況によって、許容範囲は異なると思いますが、重機で直接林内を走行すると、少なからず樹木の成長に悪影響を与えます。

伐出作業を行う場合、作業コストだけでなく、その作業が森林に及ぼす影響を多面的にとらえて、作業方法を選択し計画していくことが必要です。 

  
図-1 土壌深と土壌支持力分布 写真 現地の様子
図-1 土壌深と土壌支持力分布 写真 現地の様子:写真左側が走行区、右側が非走行区です。
図-2 孔隙の種類毎の割合
図-2 孔隙の種類毎の割合