(岐阜県森林研究所) 岡本卓也
森林のたより 2011年4月号掲載
県内において、ニホンジカ(以下、シカ)による造林木への剥皮(以下、シカハギ)が発生しています(写真1)。その対策として、林地全体を防護柵などで囲う面的な方法と、樹木一本一本に資材の設置を行う単木的な方法が行われています。このうち、面的な方法は、シカを林地内に侵入させないため効果は高いのですが、設置や維持管理に多くの費用と労力がかかります。単木的な方法は、小面積の施工や個人での施工が比較的容易ですが、低コストで効果的な方法はまだ開発されていません。
効果的なシカハギ対策を考えるためには、様々な対策や資材に対するシカハギの発生状況を整理することが必要です。そこで、まずツキノワグマによる造林木への剥皮(以下、クマハギ)防止用資材が、シカハギ防止にも効果があるのかを検証しました。
調査は、6種類のクマハギ防止資材(ベルト型2種類(写真2a、b)、テープ巻(c)、ネット型3種類(d、e、f))および無処理区を4年前に設置したスギ林分で行いました。調査項目は、剥皮の有無、剥皮動物の推定、剥皮方向の把握としました。この林分では、資材の設置時はクマハギの発生のみが確認されていましたが、隣接地ではシカハギの発生が確認されていました。
調査の結果、シカハギは資材の種類や資材の有無にかかわらず発生していました。このことから、クマハギ防止用に設置した資材では、シカハギを防止する効果はあまり期待できないと考えられます。
![]() |
![]() |
写真1 シカハギ | 写真2 試験地に設置したクマハギ防止資材 |
試験地内で発生したシカハギの状況について、資材別に詳しく調査したところ、次のような特徴が見られました。
これらのことから、シカは資材で覆われている部分を避け、露出している部分を剥皮しているのではないかと考えられます。シカが資材から露出している部分を剥皮する傾向は、枝条集積による獣害防止試験を行っている別の試験地でも確認されています。そのため、樹木を地際から覆って、なるべく樹皮の露出を少なくすることのできる資材や施工技術を開発することにより、効果的にシカハギを防止できる可能性があると考えられます。
![]() |
写真3 試験地内で発生したシカハギの状況 |
今回の調査により、剥皮状況からシカハギ防止対策についての留意点を得ることができました。しかし、まだ一地区での結果であるため、県内の他所での状況や、実際の防止効果など検証しなければならない課題が多くあります。
森林研究所では今後、これらの課題について調査を進めていく方針です。調査の際には、皆さまのご協力をお願いします。