森林の伐採後に埋土種子はどのくらい発芽するのか

(岐阜県森林研究所) 田中伸治



はじめに

人工林を伐採した後、後継となる樹木を植えずに放棄される場所が増えています。放棄された伐採跡地をそのままにしておいても、自然に樹木が生育して森林機能が再生すれば問題は無いのですが、伐採した場所によっては、森林の再生が困難で、森林資源の減少や水土保全機能の低下を招くこともあります。森林が再生するには、伐採後に、後継となる樹木が育つことが鍵となります。

そこで今回は、土の中に蓄えられていて、伐採後の後継樹木の生育に影響を与えると考えられる埋土種子がどのくらい数があって、森林を伐採した後、どのくらい発芽するのかを調査しました。


埋土種子とは

落ち葉の下や土の中に留まり、何年も生き続け、伐採や山火事などの撹乱が起こると発芽する種子があります。このような種子を「埋土種子」と呼びます。埋土種子は、発芽せずに死んでしまうこともありますが、20年以上休眠した後に発芽した例もあります。


土壌中の埋土種子数

では、土壌中にはどのくらいの埋土種子が含まれているのでしょうか。

土壌中の埋土種子を発芽させて個数を数える方法で埋土種子数を調べました。2009年4月に、岐阜県内のコナラ天然林(皆伐直後)とスギ・ヒノキ人工林(皆伐直後)、ヒノキ人工林(間伐直後)で土壌を採取し、この土壌をプランターに広げ、温室に置き、2009年11月まで、発芽した木本植物の種名と本数を記録しました(写真1)。調査の結果、埋土種子は、1〜14種、1平方メートルあたり40〜770個でした。最も埋土種子数が多かった樹種はヒサカキで、次にリョウブでした。


埋土種子はどのくらい発芽するのか

森林が伐採された後、埋土種子がどのくらい発芽するのかを調査しました。埋土種子調査の土壌を採取した場所の近くに調査区を設け、20097月〜9月に、発芽した木本植物(当年生実生)の種名と本数を記録しました(写真2)。調査の結果、当年生実生は、5〜19種、平方メートルあたり1.7〜13.8本でした。最も本数が多かった樹種はアカメガシワで、次にヤマグワでした。


埋土種子発芽試験 当年生実生の調査区
写真1 埋土種子発芽試験 写真2 当年生実生の調査区


埋土種子と当年生実生

埋土種子数に対する当年生実生本数の割合は、全体で3.2パーセント、樹種別で最高がアカメガシワの51.4パーセント、次にヌルデの38.7パーセント、最低がヒサカキの0.3パーセントでした。

アカメガシワやヤマグワなど、落葉性で成長の早い樹種は、伐採などの撹乱があると、埋土種子が発芽しやすく、当年生実生の本数が多くなりました。常緑性のヒサカキは、埋土種子量は多かったのですが、アカメガシワやヤマグワより当年生実生の本数は少しでした。また、将来、林冠を構成するような高木性樹種の埋土種子は少なく、当年生実生もわずかでした。