温暖化と松くい虫被害の拡大

(岐阜県森林研究所) 大橋 章博



【はじめに】

最近、地球温暖化の問題がマスコミで取り上げられる機会が多くなりました。最新の報告書によれば、この100年で地球全体の気温は0.6℃上昇し、これからの100年で4〜5℃上昇すると予測されています。温暖化が森林に及ぼす影響についても様々な予測が行われています。

そこで、今回は、温暖化が松くい虫被害に及ぼす影響について考えてみました。

【温度と松くい虫被害との関係】

松くい虫被害は、マツノマダラカミキリ(以下、カミキリ)がマツノザイセンチュウを伝播することで拡大します。したがって、被害が発生する場所はカミキリが生育できる場所に制限されます。カミキリが生息できるか否かを決定する要因はいくつかありますが、最も大きく影響しているのは温度です。これまでの研究成果から、カミキリが発育可能な温度は13℃で、卵から成虫にまで成長するには、日平均気温から13℃を引いた残差の合計値(有効積算温量)が1000日度必要であることが判っています。そこで、アメダスデータを基に1キロメートル四方毎に有効積算温量を算出し、岐阜県における生息可能域を図化しました。ただし、ここで示した生息可能域は、被害発生域とイコールではありません。潜在的な被害域も含まれていることに注意してください。図化には温暖化の影響を比較するため1981〜1985年(図1左)と2001〜2005年(図1右)のデータを使用しました。この20年間でカミキリの生息可能域が拡大していることがよく判ります。例えば、飛騨川流域では1980年代前半には被害の先端は旧金山町にありました。旧下呂町や旧馬瀬村も生息可能域でしたが、飛び地であったため被害が発生していなかったと考えられます。しかし、現在は生息可能域が繋がり、旧萩原町から旧馬瀬村辺りにまで被害は拡大しています。図はこうした被害拡大の様子を忠実に反映しているといえます。

図1 マツノマダラカミキリ生息可能域(着色部分)
マツノマダラカミキリ生息可能域

【飛騨は大丈夫?】

図1で注目すべき点は、旧高山市や白川村、旧宮川村がすでにカミキリの生息可能域にあるということです。旧高山市は現状では周辺被害地と隔離されており、被害材の移動のような人為的影響がない限り被害の侵入はないと考えられます。

【もし、1℃上がったら・・・】

では、このまま温暖化がすすむとどうなるのでしょうか。ここでは平均気温が1℃上昇したらという仮定で、生息可能域を計算し直してみました(図2)。カミキリが生息できる地域は大幅に拡大します。飛び地であった旧高山市は北側も南側も生息域が繋がり、被害が侵入する恐れがあります。

しかし、被害先端地域で防除を続ければ、生息可能域を飛び地のまま維持することができるはずです。飛騨地域への被害の侵入を阻止するためには、被害の危険地帯を正確に予測し、侵入経路を重点的に防除していくことが大切です。

図2 温暖化による生息可能域の予測(着色部分)
温暖化による生息可能域の予測

※図化にあたり(独)農業環境技術研究所清野豁氏が作成したアメダスメッシュ化データを使用しました。