森林景観に配慮した治山ダム


(森林科学研究所) 井川原弘一


○はじめに
 山地の急峻な岐阜県において、治山ダムは、県民の生命・財産の保全と林地崩壊の防止のために非常に役立っています。
 しかし、こうしたダムはあまり人目に触れる機会がなく、県民には、なじみのうすいものでした。ところが、近年のライフスタイルの変化から、森林内で余暇時間を楽しむ人たちが増え、これら治山ダムが人目に触れる機会が増えてきました。
 このため、最近の治山事業では、コンクリートむき出しの味気ない構造物ではなく、治山ダムの表面に様々な加工を施し、景観に配慮する事例が増えてきました。しかし、いくつもある加工方法の中から、どれを選ぶのか、その基準は明確ではなく、設計者の好みによる所が大きいようです。
 そこで、今回は治山ダムの表面テクスチャ(質感)と周囲の森林との調和について、当研究所で評価した事例を紹介します。

○評価方法
 治山ダムの背景となる森林は同一であることが望ましいので、シミュレーションを行い、その結果をもとに評価することにしました。シミュレーションの方法については、 林業センター情報66号の5〜6ページをご参考下さい。今回、シミュレーションに使用したテクスチャは表に示すとおりです。なお、テクスチャは実際にある治山ダム等から撮影しました。

 これらのテクスチャを用いて、広葉樹林内の床固工について6種類のスライドを作成しました。そして、林業短大の1年生(平成9年度)22人に評価してもらいました。


自然石

玉石張り

間伐材型枠

 評価は、スライドを用いて一対比較法を行うことにしました。これは、比較したいものを個々に判断するのではなく、常に二つずつのものを比較して判断できるため、評価者にとって判断しやすい方法です。また、二つずつすべての組み合わせで評価するため、順番を付けることができます。
 今まで行ってきた調査の傾向から、森林内の治山ダムは、周囲の森林にどれだけとけ込んでいるかによって、評価されることが多いようです。そこで、評価に際し「どちらが森林にとけ込んでいるか」を基準に評価してもらうことにしました。

○結果および考察
 一対比較の回答を解析し、治山ダムのとけ込み具合を計算した結果、自然石、化粧型枠、玉石張り、化粧ブロック、コンクリート、間伐材型枠の順でとけ込んでいるという結果が得られました。
 次に、テクスチャを因子とするために明度を考慮することにしました。これは、スライドからダイレクトプリントした写真において各テクスチャの明度をJISの標準色表により、目視によって判定しました。
 この二つの因子を散布図に表したものが、次の図です。縦軸はとけ込み具合を表し、1に近ければ森林にとけ込んでいることを示します。また、横軸は明度を表し、数字が大きくなるほど、明るくなることを示しています。

 間伐材型枠を除けば、おおむね右下がりの線が引けるかと思います。つまり、表面テクスチャが暗ければ、治山ダムはとけ込んでいると感じ、逆に明るければ、とけ込んでいないと感じられるようです。
 しかし、間伐材型枠の表面テクスチャは暗いにも関わらず、とけ込んでいないという評価でした。これは間伐材型枠は水平方向の線のみで構成されているため、鉛直方向の線で構成されている森林の中では、違和感を感じるためだと考えられます。

○おわりに
 このように、治山ダムは表面テクスチャが暗いほうが、森林にとけ込んでいるでいると考えられました。しかし、評価者が22人と少ないため、人数を増やして評価の裏づけをとる必要があります。
 また、このような評価方法を利用して、地域住民の意向を治山事業に取り込む方法について考えてみてはどうでしょうか。


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