コンピュータによる森林景観シミュレーション
−治山事業での事例−
(育林研究部)井川原弘一
林業センター情報66号 1997年2月発行
写真4 谷止工(化粧型枠)
◎はじめに
近年、県民が森林に求めるものは、量的な満足から質的な満足へと変わりつつあります。その中で、キャンプなどの森林滞在型レクリエーションや心をいやす森林景観への関心が高まっており、保健休養機能を持つ森林は、今非常に注目を集めています。
このため、森林内で行われる治山事業も、従来の経済性優先の工法から景観に配慮した工法を取り入れる必要があります。すでに、治山ダムなどでは、コンクリート構造物の表面に化粧型枠を使用したり、自然石を張り付けるなどといった新しい工法が取り入れられています。
しかし、これらのダムは計画の段階で、構造物と景観の調和について、十分に検討することができませんでした。そこで、事前に構造物と景観との調和がとれているかを検討するために、コンピューターを利用して景観シミュレーションを行いました。◎景観シミュレーションの方法
○システム構成
今回の景観シミュレーションに使用した機器とソフトウェアは以下のとおりです。
・パーソナルコンピューター
(Apple Computer PowerMacintosh 8500/120)
・イメージスキャナー(EPSON GT-9000)
・フィルムレコーダー(ポラロイド CI-5000S)
・製図用CADソフト(Mini CAD)
・写真修正ソフト(Adobe Photoshop)○シミュレーションの作業工程
シミュレーションは、図1に示すような方法で行いました。
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1.まず、計画書に添付する谷止工の構造図を用意します。
2.構造図を元に製図用CADソフトを使って、コンピューター上で構造物を立体化します。立体化した谷止工を図2に示します。
3.2で立体化した谷止工を、写真の中に取り込んでも違和感のないような向きにします。
4.向きを決定した谷止工の表面にコンクリートや玉石などの材質を模した質感を貼り付けます。
5.続いて、計画箇所の写真(写真1)をイメージスキャナーでコンピューターに取り込みます。そして、写真修正ソフトを使って、施工の際に支障になる木などを消します。
写真1 谷止工計画箇所
6.4と5の画像を合成し、谷止工が違和感なく配置されるように修正作業を行います。
7.構造物と景観との調和の具合を見て、計画を再検討し、写真(写真2、3、4)として出力します。
以上のような工程で作業を行いました。作業時間は約6時間を要しました。◎シミュレーションの結果と考察
このようにして、作成したものを写真2、3、4に示します。
写真2は打ち放しのコンクリート、写真3は玉石張り、写真4は化粧型枠の谷止工をシミュレーションしたものです。
写真2 谷止工(コンクリート)
写真3 谷止工(玉石張り)
今回、試みた景観シミュレーションは誰にでもできる簡易な方法ですが、完成状態を十分にイメージすることができました。治山ダムを施工するにあたって、このシミュレーションを次のように活用することが考えられます。
1施工前に、景観への影響を検討することが可能になります。
2単価の高い化粧型枠や玉石張りを計画するときのバックデータとして、計画書や予算資料として使用できます。
3土地使用承諾や地元説明時に地元住民の方に設計図ではなく、治山ダムの完成予想写真を見せることができます。これにより、完成時に生じるトラブルが少なくなると思われます。◎今後の課題
今回、行ったシミュレーションは簡易な方法ながら治山ダムの施工時に十分役立ちます。そして、さらに充実させるためには、次の点について検討していく必要があります。
1掘削後の埋め戻し部や構造物に貼り付けるための質感などが、より違和感なく加工できるように、多くの素材を収集する必要があります。
2計画箇所の写真に、立体化した谷止工をはめ込む段階で、谷止工の向きや計画高などの精度に問題が残ります。
しかし、精度の向上を求めると、今以上の時間と労力が必要となるため必要最小限の精度を持った、より簡易なシステムを検討していく必要があります。◎おわりに
今後、やすらぎを求めて森林へ入り込む人の数は、ますます増えることが予想されます。このため、治山事業施工地が人の目に触れる機会も多くなってきます。治山事業は山地災害を防止すると同時に、施工方法によっては美しい森林景観を保全することができます。
今後は、治山事業の施工前に、この「森林景観シミュレーション」を利用すれば、より美しい森林景観づくりができますので、そのシステムを完成させたいと考えています。
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