炭素固定能力からみた「適地適木」

(岐阜県森林科学研究所)渡邉仁志


◆はじめに
 地球温暖化問題への関心が高まり、その主因となる二酸化炭素の削減が求められています。1997年に京都で行われた気候変動枠組み条約・第三回締約国会議(COP3)で採択された「京都議定書」と2002年のマラケシュ合意(COP7)により、日本の温室効果ガスの削減目標は1990年時点の排出量の6%となりました。このうち森林の蓄積増加による吸収量として3.9%が認められるなど、森林の炭素固定機能に大きな期待が寄せられています。またその能力は林種や林齢、施業や立地によって違うので、精度の高い推定のため、様々な森林でデータが集積されています。
 林業では「適地適木」の考え方があり、やせた土地にはマツ、肥沃な土地にはスギ、その中間にはヒノキが植えられてきました。早い成長が期待できるのが理由です。それでは「適地適木」を考慮しないで植栽された場合、針葉樹の炭素固定能力はどのように評価できるでしょうか。ここでは肥沃地(下呂町)とやせ地(可児市)にあるスギ、ヒノキ、アカマツ人工林の計6林分で植栽木・下層植生・土壌中の炭素蓄積量(以下炭素量)を測定・比較し、炭素固定能力からみた「適地適木」について考えてみたいと思います(調査方法は岐阜県の林業2002・3月号、9月号をご覧ください)。

枝葉の分解作業
枝葉の分解作業

◆森林の炭素量
 肥沃地にある35年生林分の炭素量は、スギ376t/ha、ヒノキ260t/ha、アカマツ212t/haでした。樹種間に差があるのは、植栽木中の炭素量が異なるためです。これは肥沃な立地条件下における炭素固定能力の違いに起因すると考えられます。また鉱質土壌中には106〜112t/haの炭素が固定され、大きな差はみられませんでした。
 一方、やせ地にある一九年生林分の炭素量は、スギ113t/ha、ヒノキ149t/ha、アカマツ122t/haでした。このうち植生部分には33〜42t/ha、土壌中には80〜116t/haが存在しており、土壌中の炭素量は植生部分の数倍に相当しています。この調査地のようなやせた立地条件下では、土壌が森林全体の炭素蓄積に果たす役割は大変大きいことが分かりました。土壌中の炭素は過去から蓄積され続けたものです。このような土地を、林地開発などによって安易に改変してしまうと、土壌中の炭素の大量放出につながります。

◆「適地適木」と炭素固定能力
 肥沃地とやせ地で樹種間の炭素固定能力を評価するため、林齢をおよそ20年生時にそろえたときの植栽木の炭素量を比較しました(図)。

立地差と20年生時の植栽木の炭素量

 植栽木中に含まれる炭素量が多いため、やせ地の林分に比べると、肥沃地の林分はより多くの炭素を固定していることが分かりました。また樹種ごとにみてみると、スギは肥沃地でより多くの炭素を固定していました。アカマツは肥沃地でもやせ地でも炭素量に大きな違いがなく、立地条件が変わっても炭素固定能力に違いがないようでした。つまり炭素固定能力からみても「適地適木」があり、これは従来の「尾根松、沢杉、中桧」の考え方と異なるものではありませんでした。これを考慮しないで木を植えた場合、林木の成長だけではなく炭素固定の面でも不利だと考えられます。
 人工林は、数十年間その場所にあり続けます。地球温暖化防止に向けて、成長量や経済性だけでなく、炭素固定の能力の面からも植栽樹種を考えてみるのもいいのではないでしょうか。


研究・普及コーナー

このホームページにご意見のある方はこちらまで