森林土壌の炭素蓄積量

(岐阜県森林科学研究所)渡邉仁志


◆はじめに
 近年、森林のもつ炭素固定能力が注目されています。その一例として以前このコーナーでも森林地上部の炭素蓄積量などをご紹介しました(岐阜県の林業2002・3月号)。樹木などと違い、土壌は直接目に触れることが少ないため分かりにくいですが、炭素は森林の土壌中にも大量に蓄積されています。特に土壌中の有機物は分解されにくいので炭素の貯留形態として有効に機能するなど、土壌が森林生態系内の炭素の動態に果たす役割は大変大きいと考えられています。
 このような理由から最近、森林生態系内の炭素蓄積を試算する試みがなされています。しかし、土壌など地下部における調査は大変手間がかかるため、地上部に比べて調査事例が少ないのが現状です。
 そこで同一箇所に植栽されたスギ、ヒノキ、アカマツ人工林において炭素蓄積量を測定したので、その結果をもとに森林土壌の炭素蓄積について考えてみたいと思います。

◆土壌中の炭素をはかる
 森林からすべての土壌を採取することはでません。そこで土壌中の炭素量を測定するため標本調査を行います。また一口に土壌中の炭素といっても、その形態は様々です。ここでは、林床に存在する堆積有機物(落葉落枝層)と深さ70cmまでの鉱質土壌(いわゆる土)中の炭素を対象にしました。
 まず落葉落枝層については、一定面積内からサンプルを採取し、その乾燥重量から全体の現存量を推定します。また鉱質土壌については、土層ごとに試料を採取して、土壌層位の厚さ、細土容積重(土壌密度)を測定します。続いてCNコーダーという機器を利用し、試料中の炭素含有率(%:以下炭素率)を計測します。こうして得られた炭素率に、落葉落枝層については乾燥重量を乗じ、また鉱質土壌については密度と層位の厚さを乗じることにより各層位の炭素量を求め、これを深さ方向に積み上げることによって、土壌中の炭素の量を求めることができます。
 調査地は下呂町内の急傾斜地にあるおよそ35年生のスギ、ヒノキ、アカマツ林で、土壌は適潤性褐色森林土であり、樹木の成長がよい立地です。これらの林分は同一斜面上に隣接しているため、立地条件はほぼ同じです。林分の平均胸高直径は17〜22cm、平均樹高は15〜20m、中でもスギの成長がよく、立木密度はヘクタールあたり1,300〜2,200本と過密気味でした。

◆森林土壌の炭素蓄積量
 土壌中の炭素は、どの層位でも一定の割合で含まれているわけではありません。図−1は、例としてスギの幹およびスギ林土壌中の各層位の炭素率を示したものです。スギの幹とL層(落葉落枝が未分解のまま林床に堆積した層)では、炭素は重量のおよそ50%を占めていますが、それ以下の層では下方にいくにしたがって急速に低下し、鉱質土壌中では数%しか含まれていないことが分かります。

図−1 スギおよびスギ林土壌中の炭素含有率

 次に樹種ごとの現存量と炭素蓄積量をみてみます。はじめに落葉落枝層の有機物現存量は、ヘクタールあたりおよそ10t〜25tで、ヒノキ林で特に少ないという結果になりました。下層植生の衰退したヒノキ林において土壌侵食の危険性が指摘されていますが、この林分でも林床が暗く下層植生がほとんどないため、落葉落枝の流亡や鉱質土層の侵食が生じている可能性が高いようです。
 続いて樹種ごとの炭素蓄積量を示します(図−2)。落葉落枝層の現存量をもとにヘクタールあたりの炭素量を推定すると、スギ林でおよそ9t、ヒノキ林で3t、アカマツ林で9tになりました。また深さ70cmまでの鉱質土壌の炭素量は106t〜112tでした。これらからこの林地の土壌中の炭素蓄積量はヘクタールあたり109t〜121tと推測できました。これらの炭素のほとんどが鉱質土壌中に分布していることになります。またスギ林で若干多いものの、大きな差はみられませんでした。

図−2 森林における炭素蓄積量 地上部は文献による推定値

 この林分の地上部の炭素量は実測されていませんが、文献よりスギ林でおよそ200t、ヒノキ林が120t、アカマツ林が90tと推定されています。このように土壌中には目には見えないものの、地上部に劣らない炭素蓄積があることが分かりました。

◆おわりに
 いわゆる地球温暖化が問題になっている現在、森林生態系が蓄積する炭素の量に期待がよせられています。しかしその量は、樹種や密度、土壌型などによって大きく違っています。今後は、精度の高い推定を行うために、様々な森林においてこのような調査とデータの集積が必要であると思います。


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