耐力壁トーナメント戦に見る地域産材を使った住宅づくりへのヒント


(岐阜県森林科学研究所)富田 守泰


問題をまともに捉えたイベント
 建築基準法の改正で、建築業界が問題を抱えながらも対策にてんやわんやしている最中、あるイベントが富士山麓の日本木造建築専門学校で実施されました。称して「木造耐力壁ジャパンカップ」。日本住宅木材技術センター等の後援で、毎年実行委員会を設置し、今年で3年目となります。
 阪神・淡路大震災以後、木造住宅の耐震性が注目されてはきたものの、実際にはピントこない構造のあれこれを膚でふれ、考えてみようとする企画です。耐震性能というと数字ばかりで関心の薄い人でも「壁で綱引きをする」となると明解ではないですか!。つまりは壁同士を並べ引き合って先に壊れた方が負け。それをトーナメントの勝ち抜き戦で戦うわけです。

写真1 参加耐力壁を展示した会場風景
写真1 参加耐力壁を展示した会場風景

中小業界にヒントを与えるイベント
 この企画は、地震対策もさることながら、地域の木造住宅を考えるには、すばらしい企画であり、以前から関心がありました。
 柱と梁でできた軸組構法の中にあって、新たに認可される新工法の開発には暇がありません。しかし、どちらかというとメーカー主導の流れは変わりません。
 このように開発力に差のある業界の状況下においても、同じ土俵で開発工法を評価する場でもあるのです。

地域住宅を見据えた対戦ルール
 いま将に建築基準法や品確制度で地域住宅業界の対応策が注目されています。地域木造住宅業界が、地域材の長所を生かした特徴ある住宅造りを如何に進めるか。そのヒントとすべき内容が盛り込まれています。
 その一つに金属類の制約、無垢素材以外(集成材、接着材等)の制約、国産針葉樹以外の使用の制約があります。つまり無垢の国産材を使った地域工務店でできる耐力壁を考える企画でもあるのです。

出ました林短チーム
 森林科学研究所には林業短期大学校が併設されており、授業の一環として本トーナメント戦に出場しました。耐力壁には名称があり、出場者は耐力壁に込めた思いをそこに表します。ちなみに今回は、叫ぶ合板、しなり込栓、鉄人、田上剛くん等々。林短の壁は学生からアイデアを出し、筋かいプレートの形状から「モアイ君」と決定しました。
 大工工務店や設計者、学生等が参加し、合計16体。8月に予選。9月に優勝戦を行いました。

なにを見るのか
 まずは強度性能。これは引っ張って競うことであり、明解です。次に耐震性能。これは一工夫する必要があります。力とたわみ量からエネルギー吸収力を捉えることとします(図)。その他デザイン、技能、技術開発、構造設計賞があり、各得点の合計から総合優勝を決定することになります。

図 耐震性能の基準(斜線面積)
図 耐震性能の基準(斜線面積)

出場した壁は
 出場した壁は以前から開発してきた木製筋かいプレートを使用し、XX状とした写真2の右の壁です。強度に対しては、土台と柱間に2本の込栓を打ち、重量限度内の安価な金物プレートを追加しました。耐震に対しては、筋かいが突き上げないように端をすこし空かせ、筋かいプレートに使用した木ネジ本数を調整して、しなりながら耐える構造としました。

結果は
 予選は軽くクリアー。準々決勝の相手は叫ぶ合板。(写真2)名の如く、きしみながら耐えるタイプで、予想を遥かに越える対戦となりました。過去の最大の耐力はせいぜい1500kg程度でしたが、1700Kgを越え、穴の空いた隅から合板が座屈破壊しました。

写真2 準々決勝(右が参加した壁)
写真2 準々決勝(右が参加した壁)

 準決勝(写真3)は壁の向きを替えて対決しました。軸組同士の対決でしたが、相手のボルトが破壊しました。

写真3 準決勝(左が参加した壁)
写真3 準決勝(左が参加した壁)

 決勝戦相手は全くの合板そのもので、柱の引き抜き防止金具は高力ボルトを採用しており、モアイ君は土台の曲げ破壊で終了しました。(写真4)その時の耐力1800Kg。昨年までの最大耐力を軽く超えた大会更新記録となりました。

写真4 決勝(左が参加した壁)
写真4 決勝(左が参加した壁)

 最後には優勝した壁も破壊し、耐震性能を全て測定しました。モアイ君の耐震性能は強度と同様の2位でした。一般に筋かいは、たわんで破壊する座屈破壊や、桁を突き上げる破壊が生じ易く粘り強さに欠けると言われてきましたが、接合部を柔軟にすることで対応できることが示されました。
 総合優勝は逃しましたが、技術開発賞を頂き、今年の暑い夏は終わりました。


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