大発生したマイマイガ

(岐阜県森林研究所) 大橋章博



今年、大発生したマイマイガ。幼虫は山の木々の葉を食べ尽くし、成虫は森林から市街地へと大量飛来し、照明や建物の外壁に群がる様子が、テレビや新聞で大きく取り上げられました。
 市街地では夜間照明を落としたり、外壁に産みつけられた卵塊を取ったり、蛾の死骸を掃除するなど対応に追われました。こうしてマイマイガは「森林害虫」から生活圏を脅かす「不快害虫」として一躍有名になりました。

マイマイガ
大量飛来

マイマイガとは

ドクガ科に属する大型の蛾で、日本をはじめ、アジア、ヨーロッパ、北アフリカ、北アメリカに広く分布します。幼虫は様々な木の葉(主に広葉樹)を食害し、時に大発生することが知られています。北海道では、およそ10年の周期で大発生を繰り返すようです。岐阜県での記録を遡ってみると、昭和40年〜41年に大発生した記録が残っていました。これによれば、白川村で5千haの被害があったほか、久瀬、藤橋、坂内、徳山、養老からも被害が報告されています。この時の被害は樹木に留まらず、稲や麦にも及んだようです。また、当時を知る方から伺った話では、「道路の上を幼虫が大群で移動して家に押し寄せてきた」、「幼虫の糞が堆積して長靴でないと山を歩けないほどだった」とか。今では想像もつかない程の大発生だったようです。

一体どこから飛んでくるの?

最近の研究で、マイマイガ雌の飛翔距離はおよそ140mであることが野外観察の結果からわかりました。つまりこの範囲を防除すれば住宅地へ飛来するマイマイガをかなり減らすことができると考えられます。

卵塊の除去

 テレビでは建物の外壁や街灯柱に産みつけられた卵塊を掃除機で吸い取ったり、削り落とす様子が報道されていましたが、実はこれが最も効果的な防除法です。雌は生涯に一つしか卵塊を産まないこと、一つの卵塊の中には100〜1000個の卵が産みつけられていること、卵の期間が夏から翌年の春までと長いことから、非常に効果的なのです。
 外壁に産みつけられた卵塊は、孵化しても餌にたどり着けないから、放っておいても良いのでは?と思いがちです。しかし、マイマイガの幼虫は別名「ブランコ毛虫」と呼ばれ、孵化した幼虫は、糸を吐き、風に吹かれて分散する習性があるので、取り除いておく必要があります。

マイマイガ幼虫

幼虫の駆除

卵塊を除去するには限界があります。住宅地や公園等で幼虫が大量に発生した場合は、殺虫剤(例えば、エトフェンプロックス乳剤)を散布して密度を下げることも必要です。最近では、昆虫病原性の細菌を製剤化したBT剤が利用できるようになりました。これは、化学農薬に比べて、人や動物、蛾以外の昆虫への影響が少ないという利点があります。

また、幼虫が大きくなると、幹の割れ目などに隠れたり、蛹(さなぎ)になる習性を利用して、春に幹に不織布などを巻付けておきことも効果的です。すると幼虫は不織布の隙間に潜り込むので、容易に幼虫や蛹を集めることができます。羽化する前に不織布ごと取り、焼却すればマイマイガを駆除できます。

今年の大量発生はピーク?

マイマイガの大発生は、疫病などの流行病によって終息すると言われています。今年、幼虫によって丸坊主になった山を調査しましたが、そのような様子は見られませんでした。こうしてみると、来年も大量に発生することが予想されます。来春、幼虫数に注目し、大発生の兆しが見られたら研究所のホームページ等で皆さんに報告します。