薪を作ってナラ枯れを防ぐ

(岐阜県森林研究所) 大橋 章博



カシノナガキクイムシ(以下、カシナガ)が穿入することによって生じるナラ枯れ被害は年々拡大しており、終息する気配はありません。被害の拡大を阻止するには薬剤等により防除することが最も重要です。しかし、被害が既に蔓延している地域では、薬剤防除だけでなく、被害木を放置しないよう有効利用して被害の低減を図っていくことも必要となっています。

被害木の利用法としてもっとも身近な例は、薪としての利用でしょう。薪にすれば虫も焼き殺せるので、一石二鳥と思われがちですが、そう単純ではありません。木を割ったら薪としてすぐに使えるわけではなく、一夏乾燥させた後に利用します。このため、薪を燃やす頃には材の中にカシナガがいないばかりか、薪から飛び立ったカシナガによって被害が拡大する恐れがありました。 しかし、適期に薪を作ることでカシナガを駆除できることが判ったので、その概要を紹介します。


【幼虫の習性を利用】

被害木を割ってみると、その断面にカシナガの坑道が多数現れます。しばらくすると、この坑道から幼虫が次々と這い出てくる様子がみられます。一度坑道から出た幼虫は、その後生育を続けることはできません。すぐに蟻に捕食される光景もよくみられます。そこで、この習性を利用して、被害木を薪にすることで、カシナガを駆除できないか試験しました。



【4月までに薪を作成】

2011年3月にコナラ枯死木を6本伐採し、4月5〜6日に地上高5mの部位まで、約30cmの長さに玉切りし、丸太を作成しました。根元に近い丸太から順に、丸太区、薪区に振り分け、丸太区は丸太のまま樹皮が地面と接するように林内に放置し、薪区は丸太を割材して同じ林内に積み上げました(写真)。その後、成虫が羽化する直前にトラップを設置して、丸太や薪から出てくるカシナガを捕獲しました。



【高い駆除効果】

カシナガの脱出数は丸太区では6,678頭/m3であったのに対し、薪では330頭/m3で、割材による死亡率は94%でした(図)。今回は割材の効果を確かめるため、幼虫が蛹になる直前に割材しましたが、もっと早い時期に行えば、材の乾燥も進み、駆除効果はさらに高くなると考えられます。

これらのことから、被害材を4月上旬までに割材すればカシナガをほぼ駆除できることがわかりました。このことは作業を進める上で大きな利点をもたらします。 第一に、伐採は秋から冬の間に行えばよいこと。慌てて伐採する必要がなく、作業のしやすい落葉期に作業することができます。 第二に、割材は作業しやすい場所で行えばよいこと。山の中で割材する必要がないので、運びやすい丸太のまま移動し、作業しやすい場所で割材することができます。



【注意すること】

本方法では材内のカシナガを完全に駆除することができません。したがって、被害が発生していない地域へ被害材を持ち出すことは厳禁です。また、被害先端地や微害地域へ移動させることも避けるべきです。あくまでも、被害がすでに蔓延している地域でのみ行ってもよい方法であることを理解しておいてください。 

  
写真 割材して積み上げた被害材 図 丸太と薪からのカシノナガキクイムシ脱出虫数布
写真 割材して積み上げた被害材 図 丸太と薪からのカシノナガキクイムシ脱出虫数布