広葉樹造林地の下刈り2
下刈り省略の可能性を探る

(岐阜県森林科学研究所)横井秀一


 前号で広葉樹の造林地における下刈りに起因する問題を指摘し、最後に「下刈りによって問題が生じるのなら、下刈りをやめたらどうだろう」と問題提起しました。今回は、そのことについてお話しします。
 荘川村の広葉樹総合実験林に、下刈りの回数を違えたクリとケヤキの造林地があります。それらの成績から、下刈り省略の可能性を検討してみましょう。

■下刈りを省略した17年生クリ造林地の成績

図1 クリ17年生造林地の立木本数
図1 クリ17年生造林地の立木本数

 クリ上層木の平均樹高は下刈り区(五回下刈り)が11.0m、省略区(一回のみ下刈り)が8.7mになっていました。下刈り区の樹高が高いのは、下刈りの有無というよりは、下刈り区の方が土壌条件に恵まれていたことが原因だと考えられました。
 図1は、両区の立木本数をクリとそれ以外の樹種に分けて示したものです。これをもとに、クリの林が成林したかどうかをみてみましょう。
 下刈り区では上層木は全てクリで、クリの純林が成林していました。一方の省略区にはクリ以外の広葉樹も生育していましたが、それらの多くは下層木でした。上層木ではクリが圧倒的に多く、省略区もほぼクリの純林だとしてよいでしょう。なお、下刈り区のクリが少なくなっていたのは、クリ同士の競争で枯れたクリが生じたためです。
 クリの形質についても調査しましたが、両区に違いは認められませんでした。したがって、この造林地での下刈りの省略はクリの成林を阻害するものではなかったといえます。


■下刈りを省略した16年生ケヤキ造林地の成績

図2 ケヤキ16年生造林地の立木本数
図2 ケヤキ16年生造林地の立木本数

 ケヤキ上層木の平均樹高は、下刈り区(六回下刈り)が4.6m、省略区(一回のみ下刈り)が6.2mと、こちらは省略区の方が大きくなっていました。クリと同様、これには土壌条件の違いが影響したと考えられました。
 では、クリと同じようにケヤキ造林地の成績をみることにします。
 立木本数を図2に示します。どちらの区もケヤキ以外の広葉樹が上層に多数生育し、ケヤキ純林と呼べる状態ではありませんでした。ただ、下刈り区にはケヤキの本数が十分にあることから、これを除伐によってケヤキ純林に近い状態に誘導することは可能だと考えられます。これに対して、省略区はケヤキが少ないため、これをケヤキ林に仕立てることは不可能です。
 省略区でケヤキの本数がこれほどまでに減ったのは、他樹種による被圧が原因です。したがって、ここでの下刈りの省略はケヤキの成林にマイナスだったことになります。


■クリとケヤキの違いから
 下刈り省略が○だったクリと×だったケヤキとでは、何が違ったのでしょうか。それは、両種の樹高成長の差であると考えます。樹高成長が良かったクリは、下刈りを省略しても雑草木に被圧されることがなかったのでしょう。
 この結果から、造林木の樹高成長が良ければ下刈りを省略しても成林する可能性が見えてきました。
 ただこのことをもって、手放しで下刈りをしなくても大丈夫だとは思わないでください。下刈りを省略して成林するかどうかは、雑草木の量や成長、ツルの有無など、造林地の状況にも左右されます。当然のことですが、造林木と雑草木の関係を観察することで、下刈りをしなくても大丈夫かどうかを見極める必要があります。


研究・普及コーナー

このホームページにご意見のある方はこちらまで