マツタケの菌を分離する

(岐阜県森林研究所)水谷和人


【キノコの組織分離】

 山で採取したキノコを遺伝資源として保存するために、組織分離という方法があります。キノコの内部組織の一部を栄養が入った寒天培地に無菌的に植え付けると、寒天上に菌糸が伸長してきます。この菌糸は、分離源であるキノコと遺伝的に同じ性質です。シイタケやナメコなど人工栽培が行われているキノコのほとんどは、一般に使用する栄養豊富な培地で簡単に分離ができ、その後の菌糸伸長も良好です。増殖した菌糸は、定期的に新しい培地に植え継げば、冷蔵庫で何十年にもわたり保存もできます。しかし、どんなキノコでも分離できるわけではありません。分離が困難、さらには現在の技術では不可能なキノコも多くあります。マツタケは組織分離が困難な種類のキノコです。

【てごわいぞ!マツタケの組織分離】

 マツタケの組織分離では、若いマツタケの傘の裏にあるヒダを使用します。その理由は、内部の組織から分離しても、その成功率が極めて低いからです。しかし、ヒダは胞子が形成される場所であり、若いマツタケのヒダでも胞子が形成されている可能性があります。このため、遺伝的に異なったものを増殖してしまう可能性があり、この方法は遺伝的な実験や優良なキノコが得られた時にそのクローンを保存したい場合などには適しません。マツタケは、菌糸伸長が極めて遅いため、菌糸伸長を良好にする培地が種々検討されています。しかし、分離に適した培地の検討はほとんど行われていません。そこで、遺伝的に同じ性質を持った菌糸の増殖に適した条件を把握することを目的として、マツタケの内部組織の分離に適した培地を検討しました。

図−1 素寒天培地で分離したマツタケ
 図−1 素寒天培地で分離したマツタケ

【マツタケの組織分離に栄養は不必要か?】

 試験に使用した培地は、マツタケの菌糸伸長に使用される改変MA培地、および1/10改変MA培地、合成培地、素寒天培地の4種類です(表−1)。これらの培地に県内で採取したマツタケ6系統の内部組織、およびヒダを植え付けました。その後、増殖に適した21℃で管理して状況を観察しました。ヒダの分離は、供試した培地でいずれも可能でした。一方、内部組織の分離は、改変MA培地や1/10改変MA培地、合成培地では全く成功しませんでした。しかし、素寒天培地では供試数28個に対してその54%で分離できました(図−1)。素寒天培地にはマツタケが吸収できるような栄養はほとんどありません。その他の培地は種々の栄養が含まれていることから、マツタケの組織分離に栄養は不必要なのかもしれません。その原因等詳細については残念ながらわからないため、今後は多くの系統を用いた確認試験等が必要です。

表−1 培地の種類とマツタケ組織分離の結果

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