東濃地域の希少樹種の保全
−遺伝的多様性に配慮した保全のあり方−(岐阜県森林研究所)中島美幸
森林のたより 2006年4月号掲載
写真.東濃地域の希少樹種の花
(4月にはシデコブシ、ハナノキ、5月にはヒトツバタゴが花を咲かせます)
ヒトツバタゴ
ハナノキ
シデコブシ○遺伝的多様性が示す自生地の姿
樹木の集団が持つ遺伝的多様性は、樹木が環境に適応して生存することを可能にしている重要な要素の一つです。遺伝的多様性が高い集団は、急激な環境変化に対処できる可能性が高いと考えられています。一方、遺伝的多様性が低い集団は、過去あるいは現在において、自生地の分断化や個体数減少の影響を受けており、環境の急激な変化に対処できず、自生地が消滅する恐れがあります。
今回、東濃地域の希少樹種、ヒトツバタゴやハナノキ、シデコブシの遺伝的多様性の研究の紹介とあわせて、これらのデータからみた保全のあり方について述べたいと思います。
○東濃地域の希少樹種の遺伝的多様性
- ヒトツバタゴ
(自生地域が違うと遺伝的特徴も違う)
- ヒトツバタゴは、東濃地域と長崎県対馬にのみ分布しており、その個体数は東濃地域で200〜300本、対馬で3000本といわれています。大阪府立大学の研究グループによる調査の結果、東濃地域のヒトツバタゴの遺伝的多様性は対馬のそれよりも非常に低いことが分かっています。
- ハナノキ
(ご近所同士でも遺伝的特徴は違う)
- ハナノキは、東濃地域の他に、長野県南部の木曽地域と下伊那地域、さらに、これらの地域から約500キロ離れた長野県北部の大町市にも生育が見られます。(独)森林総合研究所は、長野県のハナノキ集団の遺伝的多様性の調査を行いました。その結果、木曽地域のハナノキは、地理的に遠く離れた大町市の集団よりも、地理的に近い下伊那地域と遺伝的に大きく異なっていることがわかりました。
- シデコブシ
(東濃は遺伝資源の宝庫)
- シデコブシは東濃地域を中心に、渥美半島や三重県北部まで分布しています。森林研究所によるこれまでの調査から、東濃地域のシデコブシ集団は、渥美半島や三重県など他地域の集団よりも遺伝的多様性が高く、遺伝資源の宝庫と考えられました。
○遺伝的多様性から保全を考える
- 遺伝的多様性が低い場合
- 遺伝的多様性が低いからといって、すぐに絶滅につながるわけではありません。しかし、環境の変化に対処しにくい可能性があるので、急激な環境変化に注意する必要があります。また、東濃地域のヒトツバタゴは、自生地の個体数も少ないので、個体数減少を防ぐ努力が必要です。
- 遺伝的多様性が高い場合
- 東濃地域のシデコブシのように遺伝的多様性が高い集団は、遺伝資源の宝庫としてとても貴重です。この場合は、現在の遺伝的多様性を損なわないような生育環境、個体数の確保が重要です。また、ハナノキのように、近くでも遺伝的特徴が異なる集団は、その特徴を損ねないよう、安易な個体移植を避けることが得策と思われます。
○遺伝データがなくても遺伝的多様性に配慮はできる
遺伝的多様性が明らかになっていない種でも、個体数減少に注意し、異なる地域からの安易な個体移植をしないように配慮することが、遺伝的多様性に配慮した保全につながると思われます。
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