森林資源の充実と林床の有効活用を目指して
希少有用植物の林床栽培(岐阜県森林科学研究所)茂木靖和
森林のたより 2005年8月号掲載
【はじめに】
森林資源といえば、木材としての利用がほとんどでしたが、目を林床に移せば山菜や薬用植物あるいは園芸用に利用可能な有用植物がたくさん生育しています。これらの多くは、ワサビ、タラノメ、ナンテン、サンショウなど一部栽培物を除き、山採りされています。このため、乱獲により自生個体数が著しく減少し、森林内の種の多様性維持、資源の枯渇が懸念されるものがあります。
今回は、このような希少有用植物の林床を利用した資源充実を図るための試みを紹介します。
【取り組みの概要】
当所では、今年度から「希少有用植物の増殖と林床栽培に関する研究」を実施しています。この課題では、希少有用植物の苗育成とここで得られる苗をスギやヒノキの人工林の林床で効率的に栽培する方法を明らかにすることを目的としています。
【対象とする希少有用植物】
対象種は、希少或いは減少しているもの、有用であるものの他に、日陰や半日陰を好んで生育するもの、つまり畑よりも林床の方が栽培に適していそうなものとし、次の2種から研究を始めています。
- ヤマシャクヤク
園芸用の採集や森林伐採などにより自生個体数が著しく減少し環境省レッドデータブックでは絶滅危惧II類に分類されています。根茎や根は薬用としても利用できます。
ヤマシャクヤクの果実 - サラシナショウマ
和名は晒菜升麻で、若葉をゆでて水で晒して食べたことによるといわれています。新芽を山菜、根茎を薬用として利用できます。
サラシナショウマの新芽 【試験の進め方】
- 苗育成
苗育成は通常実生繁殖で行われます。しかし、今回対象とするヤマシャクヤクは、発芽に2年以上かかるものが多く効率的ではありません。そこで、種子から胚を取り出しそれを試験管内で無菌的に培養することによって、短期間での苗育成を試みます。
ヤマシャクヤクの胚培養 - 林床栽培
林床の条件は千差万別であることから、栽培植物が生育していくための好適条件を明らかにすることが重要です。そこで、今回は、自生個体が多く生育する林床の共通点や類似点の中から生育に関連しそうな条件を取り出し、それに近いスギ又はヒノキ人工林の林床で実証試験を行い、その結果から栽培植物の好適条件を明らかにしていきます。また、実証試験の際には人工林の管理方法、施肥や盛土の効果を検討して、効率的な栽培方法を提案していきたいと考えています。
盛土区 露地区
林床における栽培試験枠
(下呂市萩原町四美、全国植樹祭会場)【おわりに】
岐阜県は県土の80%以上を森林で覆われ、その林床には有用で未活用な森林資源に恵まれています。これらを森林を管理しながら林床で栽培することができれば、森林の健全性維持、地域特産物の開発など、地域の活性化に役立つと思われます。
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