東濃地域のシデコブシ自生地
○国指定天然記念物に向けて○

(岐阜県森林科学研究所)中島美幸


写真1 天然記念物シデコブシ自生地(恵那市指定)
写真1 天然記念物シデコブシ自生地(恵那市指定)

○はじめに

 東濃地域には、地元保存会の人々の高い関心と手厚い保護を受けているシデコブシ自生地が多くあります。これらのうち、いくつかのシデコブシ自生地は市指定天然記念物にされていますが(写真1)、国指定天然記念物になった自生地は一カ所もありません。

 一方、平成16年11月に、三重県菰野町田光(たぴか)のシデコブシ自生地が、国指定天然記念物にされることになり、新たな展開が見られました。

 今回、シデコブシ自生地の天然記念物指定に向けたお話をしたいと思います。

○天然記念物とは?

 「天然記念物」という言葉は、誰も一度は耳にしたことがあることでしょう。しかし、天然記念物とはどういうものなのでしょうか?

 天然記念物とは、動植物、鉱物、天然区域のうち、学術上価値の高いものとして国や地方自治体が指定したものをいいます。国は、文化財保護法に基づいて指定するのに対し、地方自治体は、それぞれの文化財保護条例に基づいて指定します。シデコブシ自生地が国指定天然記念物となるには、まず、地元の教育委員会から県教育委員会文化課を通して文化庁に申請する必要があります。

 シデコブシ自生地が天然記念物に指定されると、シデコブシが生きていくための環境を保護することになるため、道路建設などの開発行為が制限されることになります。

○東濃のシデコブシ自生地が国の天然記念物指定を受ける価値

図1 地域ごとのシデコブシ自生地の特徴
図1 地域ごとのシデコブシ自生地の特徴

 三重県菰野町田光の自生地は、シデコブシ分布の西限にあたることからも、国から天然記念物指定を受ける価値は高いと思われます。また、すでに国指定天然記念物となっている愛知県渥美町椛(なぐさ)の自生地は、シデコブシ分布の南限です。

 同様に考えると、東濃地域には、分布の北限(旧恵那郡福岡町下野)と東限(中津川市子野)にあたる自生地があり、恵那市飯地町の自生地は、分布域の中でも最も標高の高い場所に位置しています。さらに、土岐市北畑には、7000株以上のシデコブシが自生しており、自生地としては最大級の集団サイズを誇っています。さらに、これまでの研究結果から、遺伝的な多様性も高いことがわかっています。これらのことから、東濃地域はシデコブシの分布の中心といえます。また、地元からは自生地を国指定天然記念物にしたい、というニーズが高まってきています。

 県や市指定の天然記念物になった場合、その種の分布が他の地域に及んだ場合は、その分布域は保護の対象にはならないのに対し、国は複数の県や市町村にまたがって指定できるため、分布域全体の保全を図ることができます。


○おわりに

 これまで、シデコブシの保全には、遺伝子多様性を残せるような自然環境の保全が大切であることを調査研究してきました。そのためには、失われた部分の自然再生推進事業による回復とあわせて、天然記念物指定によって自生地を現在のままの姿で保護していくことも重要です。

 岐阜県のシデコブシ自生地を国指定天然記念物として考えるためには、さらに地域の人々や自治体の高い関心と理解が大切です。


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