菌床シイタケ栽培を考える
−きのこを菌床下面から発生させない−

(森林科学研究所)水谷和人


はじめに
 現在、岐阜県で生産されているシイタケの約半分は菌床栽培によるものです。県内の菌床シイタケ栽培の歴史が約十年ということを考えると、非常に速いテンポで普及してきたと言えます。しかし、栽培技術は歴史が浅いことから未だ確立したものではなく、今後も技術向上のために様々な検討を行う必要があります。
 菌床シイタケ栽培では、菌床をパイプなどの上に置きます。このため、菌床下面(パイプに接する面)から発生したきのこはパイプにつぶされてしまいます。つぶれたきのこは商品価値がないだけでなく、切り取りの煩雑さや菌床面及びパイプへの付着残査が害菌汚染源となり、問題があります。
 そこで、きのこの発生を菌床下面で少なくするため、菌床の置き方について検討しました。調査は、培養終了時点で菌床の置き方を二通りに設定し、一次発生においてきのこの発生位置、生重量を測定しました。調査に使用した菌床は重さが3.5kgで、各置き方につき四個としました。

菌床をそのままで発生させる
 まず、培養からきのこの発生まで写真1に示した置き方で管理しました。すなわち、培養は植菌面を上にして管理し、培養終了時点で袋を除去した後も植菌面を上にしてきのこを発生させました(そのままの菌床とする)。
 結果は表のとおりで、そのままの菌床ではきのこは菌床上部よりも下部から多く発生しました。特に上面からの発生はほとんどなく、下面からは菌床全体の発生量1.2kgの約5%に当たる60gが発生しました。つまり、そのままの菌床は下面からきのこが発生するため良い置き方ではありません。


写真1 使用した菌床菌

菌床をひっくり返して発生させる
 今度は、培養終了時点で菌床をひっくり返して培養時とは上下逆にしてきのこを発生させました(ひっくり返した菌床とする)。結果は菌床上部からきのこが多く発生しました。特に下面からの発生はほとんどありませんでした(表)。この場合、菌床下面以外のきのこの発生量がそのままの菌床に比較して少ないと問題があります。(菌床全体の発生量)−(下面からの発生量)で比較すると、そのままの菌床が1.14kg、ひっくり返した菌床が1.16kgです。若干ですが、菌床下面以外のきのこ発生量はひっくり返した菌床が多いという結果でした。
 これらのことから、菌床下面からの発生を少なくし、パイプによる変形を少なくするためには、培養終了時点で菌床をひっくり返して上下反対にした方が良いと考えられます。菌床の置き方を培養終了時点に変えることは、袋栽培で行っているシイタケ菌床栽培者には比較的取り組みやすい作業と考えられます。


写真2 ひっくり返した菌床菌

結果について考える
 そのままの菌床とひっくり返した菌床で発生位置別にきのこの発生量を比較すると、結局きのこが多く発生するのは培養時の菌床下部で、培養終了時点で菌床をそのまま、あるいはひっくり返しても発生に大きな違いはありませんでした。それでは、なぜきのこの発生が多いのは培養時の菌床下部であった部分なのでしょうか。
菌床を培養していると、培養が進むにつれて栽培袋内で菌床との隙間に水がたまります。今回行った植菌面を上にして培養する方法では培養終了時点で水が栽培袋内の菌床の約半分の高さまでたまります。このようなことから、菌床上下間の発生量の違いは菌床内の水分量の影響によるものであると考え、培養終了時点の菌床内部の含水率を測定しました。菌床内部の含水率は菌床を27に分割してそれぞれのブロックごとに求めました。含水率は73〜76%で、菌床上部下部に大きな違いはなく、ほぼ平均的に分布していました。菌床内部の含水率の影響でなければ、菌床表面の含水率と考えられますが、このことについては現在調査中で、その他の要因を含め今後さらに検討をしたいと考えています。


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