スギに適する人工乾燥方法とは
スギ柱材の最適乾燥温度

(林産研究部)富田 守泰


◆建材に必要な人工乾燥
 東濃桧を中心にヒノキの人工乾燥は普及してしばらく経ちました。需要先である住宅規格の変化とともに、現在ではスギの柱でさえも乾燥材が求められ、「長良杉」のさらなる需要を喚起するためにも乾燥が重要となってきています。そこで県内にも整備され始めた建材用の蒸気式乾燥機の利用について、もっとも重要である乾燥温度との関係について、柱材の乾燥を主体に紹介します。

◆ヒノキのようにはいかないスギ乾燥
 建材の人工乾燥はヒノキの柱材を中心に増えてきました。ヒノキは生材でも含水率が比較的低く、乾燥しやすく、それに適する除湿乾燥が普及しました。しかしながら、スギ材は生材の含水率が他の樹種に類をみないほど高く、乾燥温度の低い除湿乾燥では時間やコストがかかり、乾燥しきれないことが分かってきました。
 このように、ヒノキなどの針葉樹乾燥よりも高温で乾燥する必要性がでてきました。そこで最近スギ乾燥で導入されているのは広葉樹などの家具用材を中心に乾燥している蒸気式の乾燥機です。除湿乾燥ではせいぜい60℃程度までしか温度を上げれないのに対し、蒸気乾燥機は100℃以上まで温度を上げることができ、湿度のコントロールも融通のきく装置です。

◆スギに最適なスケジュールとは
 次に必要になるのはどのように乾燥するかです。通常の乾燥は温度と湿度でコントロールするわけですが、乾燥材の含水率が何%の時、温度、湿度を何℃、何%に設定するかを決めるのです。これを乾燥スケジュールといいますが、この基本は初期と終期の温度、湿度を設定することです。この終期の温度別に乾燥を実施し、材質の変動を測定して最適のスケジュールを探ってみました。
 対象とした木材は10.5cmの背割り済み柱材で、終期温度を65℃、75℃、95℃、110℃とし、湿度は乾湿球温度差20℃差とし、初期温度は終期の5〜15℃低く、湿度は4℃差としております。
 乾燥時間は65℃が200時間に対し、110℃は100時間と半分の時間で済みました。

◆温度で違う収縮、背割り幅
 温度別に含水率経過と幅方向の収縮率経過を図1に示します。温度が高くなる程収縮率は高い傾向となり、特に110℃では含水率の高い乾燥初期に異常収縮を生じており、材中心部で組織が落ち込んでいると思われます。


図1.含水率と収縮率(%)

◆引き抜き防止に込み栓を見直す
 筋かいを使用していても地震で倒壊した原因の一つは柱と土台や胴差の間の引き抜きでした。柱には自重がかかっているものの、それ以上の引き抜き力が生じて倒壊しています。そこで、補助金物としてT字、V字金物が使用されていますが、大工さんには今一つ人気がありません。金物からの結露からくる土台の腐れや釘を数多く打ち込むことへの抵抗があると思われます。そこで、込み栓を使用しました。込み栓はナラやカシ等堅木で作る自家製の角栓やドリルで穴開けできる丸込み栓が市販されています。長ホゾとしてドリルで穴開けし、込み栓を打ち込む手間は金物を取り付ける手間と遜色ない程度ではないでしょうか。


図2.含水率と背割り幅

 同じく図2に温度別の背割り幅変動を示します。65℃以外はほぼ同じで、65℃から75℃に上げることで背割り幅が上昇はするものの、75℃以上では温度上昇による変化はないようです。つまり75℃以上では収縮率が上昇しても背割り幅は同じであるといえます。これは高温乾燥が、無背割り材の割れ防止に効果があることと通じているのかもしれません。
 また背割り以外での割れは温度の低いほど多い傾向が示されました。
 以上の結果は図3の模式図で説明ができます。65℃程度では背割りは開かないが、背割り以外で割れが生じやすい。75℃〜95℃では背割りが開く、ただし110℃では中心部に落ち込みが生じ、幅の収縮が大きくなっても背割り幅の変化はあまり生じません。


図3.温度別乾燥形状

◆意外、低温は曲がりやすい
 温度別に柱の曲がり変動を示します。(図4)曲がりは温度と逆で、低温ほど曲がりやすい傾向がうかがえます。


図4.含水率経過と曲り

◆改めて見直す現場接着
 地震時の初期剛性を高めるために現場接着剤を使用し、結果を図4に示しました。確かに剛性は高く、最大引き抜き強度も高い結果となりました。しかしながらねばりは全くないため、込み栓などと併用することで効果があると思われます。今後は遅くまで硬化しない接着剤が待たれるところです。

◆期待通りの乾燥を目指すには
 このように見てくると、温度の違いによる材質の変化が想定できます。時間(コスト)をかければ背割り幅、収縮も小さくて済みますが、曲がりや割れが生じやすい。時間を短縮するならば、曲がりや割れは生じにくいが、背割り幅、特に収縮量を考慮し、分増し製材をする必要がある。いずれにしても、対乾燥経費や目的材質との兼ね合いで決めることが重要となってきます。
 最近100℃以上の「高温乾燥」が乾燥機メーカーを中心に話題に上りますが、材質の変化をよくよく考慮し、検討する必要がありそうです。


研究・普及コーナー

このホームページにご意見のある方はこちらまで