林地への培養菌糸体埋設によるホンシメジの発生事例

(岐阜県森林科学研究所)水谷和人


●はじめに
 ホンシメジは「香りマツタケ、味シメジ」と言われているとおり、我が国に広く分布する食用キノコの王様です。このキノコは菌根菌で、近年は林地での発生量が激減しています。このため、発生量を増大させるための様々な取り組みが全国各地で行われています。この中で、培養菌糸体を林地へ埋設する方法はキノコの発生事例がいくつか報告されており、現時点では最も効果が期待できそうです。しかし、まだ埋設事例が少ないために、その効果が十分に解明されているとは言えません。確実に、かつ継続的に発生させるためには、より多くのデータの蓄積が必要です。ここでは、ホンシメジの培養菌糸体をアカマツ林に埋設し、その後三年間のキノコ発生について調査した事例を紹介します。

写真 埋設翌々年に発生したホンシメジ
写真 埋設翌々年に発生したホンシメジ

●培養菌糸体の埋設方法
 対象とした林地は、岐阜県美濃市のホンシメジの発生が確認されていないアカマツ人工林(2000年時点で34年生)で、コナラやアベマキなども点在しています。この林の尾根付近の南斜面(傾斜30度、海抜200m、土壌型BA)に調査地を設定しました。調査地は事前に林内の上層木の整理伐や下層木の除去を行い、A0層も除去しました。埋設用の培養菌糸体は日向土、赤玉土、米ぬか、押麦、イーストエキス、水道水を混合してポリプロピレン製の栽培袋に600g詰め、ホンシメジの菌を増殖させたものです。ホンシメジの菌は当研究所で保有する14菌株を使用しました。これを2000年春に調査地内の60ヶ所に埋設しました。埋設方法は15cm程度の大きさの穴を掘り、培養菌糸体を一個置いた後に赤玉土とイソライトで埋め戻してさらに落葉で被覆しました。

●キノコの発生
表 ホンシメジの発生状況
 キノコは培養菌糸体を埋設した年から毎年秋のみに発生しました(写真)。発生位置は培養菌糸体を埋設した穴の真上がほとんどです。キノコの発生状況を菌株別に表に示しました。キノコの発生率は菌株によって0〜80%と大きく異なり、9409や9413はキノコを発生しやすい菌株であると考えられました。総発生ヶ所数は、埋設当年が2ヶ所、翌年16ヶ所、翌々年8ヶ所で、このうち二年連続で発生したのは4ヶ所、三年連続の発生はありませんでした。


●最後に
 ホンシメジは培養菌糸体の埋設によって新たに発生しました。しかし、今後も継続的に発生するかどうかは、引き続き経過を観察する必要があります。
 林地の環境整備や培養菌糸体の埋設は大変労力が必要な作業です。現時点では、作業に見合った確実でかつ継続的な発生が見込めるとは断言できません。今後は、キノコを発生しやすいと考えられる菌株を使用した埋設も並行して実施したいと考えています。また、ホンシメジの発生しやすい山の条件を明らかにするため、いろいろな山での試験が必要です。岐阜県内で栽培に関心があり、埋設可能な山を提供可能な方はご連絡下さい。


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