精油抽出残渣がきのこ栽培に利用可能


(岐阜県森林科学研究所)井戸好美


■はじめに
 近年、森林の健全な育成と森林資源の有効利用を図る手法として、製材所から排出されるオガ粉や端材あるいは間伐作業後林内に放置される間伐材や枝葉を利用することが検討されています。
 そのひとつとして、最近これらのうち材や枝葉に含まれる精油などの抽出成分の研究が盛んに行われています。樹木の精油成分は、アレルギーの原因であるダニの繁殖を抑える効果や建築材を食害するシロアリに対する殺蟻効果、病原性を持った微生物に対する抗菌効果等に効用のあることが報告されています。
 また、精油の匂いを嗅ぐことにより、リラックスできることも知られています。
 このようなことから、樹木の精油成分は森林資源の有効活用の新しい分野として期待されています。
 ここで問題になるのが、樹木から精油を抽出した後に残る残渣です。
 これら精油抽出残渣は、(1)発酵微生物を利用した農業用や園芸用の堆肥、(2)家畜の飼料や敷き料、(3)炭化技術を利用した粉炭などへの利用が考えられています。しかし、再利用されていないのが現状なので、用途の拡大が求められています。
 そこで、今回は培地基材として大量に使用できる食用きのこ栽培への利用を検討しましたので紹介します。

■培地基材への利用
 培地基材に精油抽出残渣が利用できるかを明らかにするため、当研究所に成育する30年生のスギより得たオガ粉を水蒸気蒸留並びに熱水蒸留で6時間抽出した後の残渣(以下水蒸気残渣、熱水残渣とする)を試験材料として、シイタケ及びヒラタケへの栽培試験を行いました。  ここで抽出された精油成分は殆どがテルペンあるいはテルペンアルコールです。これらテルペン類は、きのこ類の生長を阻害する物質として知られています。この蒸留操作により、精油成分が除去されることは、きのこ類の生長を促進させ、発生量増加につながる基材として期待が高まっています。

◇ヒラタケ栽培への利用
 培地基材に水蒸気残渣と熱水残渣が利用できるかを明らかにするため、蒸留操作を行わないスギオガ粉の代替材料として比較試験を行いました。
 その結果、きのこの発生量は3試験区ともほぼ同じで差は見られませんでした。一方、きのこの発生経過を比較すると、きのこの収穫開始日(発生室へ移動後始めてきのこを収穫した日)は3試験区とも11日目と同じでした。しかし、収穫開始日の発生量は無処理区が栽培瓶1本当たり4gであるのに対し、水蒸気残渣区及び熱水残渣区は19gと約5倍の発生が見られました。
 また、一番発生の収穫期間は無処理区が収穫開始日から4.3日であるのに対し、水蒸気残渣区は2.3日、熱水残渣区は3.4日と1〜2日きのこの収穫期間を短縮することができました。(図1)

図1 ヒラタケ栽培における子実体の発生過程

◇シイタケ栽培への利用
 培地基材に水蒸気残渣と熱水残渣が利用できるかを明らかにするため、通常培地基材に利用されているブナオガ粉に対する混合割合(容積比)を替えて比較試験を行いました。
 その結果、きのこの発生量は標準区(ブナオガ粉)に対して水蒸気残渣並びに熱水残渣を20%混合した試験区でほぼ同じでした。しかし、水蒸気残渣、熱水蒸留残渣を50%混合した試験区は標準区の約80%の発生量であることから、精油抽出残渣の混合割合が高くなると発生量は減少する傾向が認めれました。
 また、きのこの発生個数も発生量と同様の傾向が認められました。(図2)

図2 シイタケ栽培における子実体の発生量と発生個数

 一方、発生したきのこの傘径別の個数割合を比較すると、商品価値が高いと考えられるきのこの傘径4cm以上(生シイタケ統一規格M以上に相当)の割合は、水蒸気残渣50%区<標準区(ブナオガ粉)<熱水残渣50%区<水蒸気残渣20%区<熱水残渣20%区と精油抽出残渣を混合することにより、傘径の大きいきのこの割合が高くなる傾向が認められました。(図3)

図3 シイタケ栽培における子実体の規格割合

 今回行った試験では、水蒸気蒸留並びに熱水蒸留による差は見られませんでした。
 以上のことから、培地基材にスギ精油抽出残渣を利用すると

●ヒラタケ栽培ではきのこを早期に集中発生させることができました。
 →スギオガ粉の培地基材の代替材料として利用できることが確認されました。

●シイタケ栽培ではスギ精油抽出残渣単独で利用することはできませんでしたが、20%の混合割合なら発生量への影響は少ないことが確認されました。
 →ブナオガ粉の培地基材の代替材料として20%以内の混合割合なら利用できることが確認されました。

■おわりに
 今まで利用されていない精油抽出残渣が新たにシイタケ、ヒラタケ栽培に利用出来ることが確認されたので、今後更に、他のきのこ栽培にも活用できるものと期待されます。


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