ハンディGPSは森林管理に使えるか


(岐阜県森林科学研究所)古川邦明


■はじめに
 ここ数年急激に進展しているIT技術ですが、林業の現場では昔からパソコンを測量データ計算や森林台帳管理などに使っています。また、最近のパソコンの能力向上は著しいものがあり、GIS(地理情報システム)が、家庭用のパソコンの能力で十分使えるまでになりました。また価格も下がっており、森林GISとして県下の森林組合への導入も進んでいます。これに併せて、森林情報の収集に期待されているのがGPSです。GPSは全地球測位システムといわれ、地球上のどこでも、現在地をリアルタイムで測定してくれます。カーナビで使われていますし、登山などアウトドアスポーツ用のハンディ機は数万円で購入することができますから、お持ちの方も多いと思います。

写真 ハンディGPS
写真 ハンディGPS
左:外部アンテナ  右:本体

■ハンディGPSの精度は?
 GPSは位置測定において大変優れたシステムであり、以前からGPSを森林調査や測量に使えないかと考えてきました。GPSは複数のGPS人工衛星からの電波信号を受信して位置を求めています。この衛星は米国の軍事用衛星であり、民間利用では信号の精度がわざと落とされていたため(SAといいます)、ハンディ機では最大100mほどの誤差がありました。とても林業業務で使える精度ではありません。測定精度を上げるためにDGPSを使えば、誤差±0.5m程度の精度で測定も可能です。DGPSとは衛星からの電波に加えて、地上にある基地局からのビーコンを受信して誤差を補正する方法です。高精度のビーコン受信機は高価なのに加えて、森林内ではビーコンが受信できない場所が多いことから、林業関連の業務には向いていないと思われてきました。
 ところが平成12年5月にSAが解除されました。これによって普通のハンディGPSでも±10m以内の制度が期待できるようになりました。そこで、早速所有するハンディ機(写真右側)で測定精度を調べてみました。
 上空に遮蔽物がない好条件での測定では、最高±4m以内の誤差で測定することができました。これはSA解除以前に、ハンディ機にDGPS受信機をつないで測定していた精度に匹敵します。しかし、急傾斜地や立木等の障害物が多い森林内ではどうでしょうか。これを確認するため、林道や森林内で測位してみました。

■林内での測定の結果
 森林内でGPSの測位相度に影響する要因には、1.斜面や樹幹が衛星からの信号を遮る2.樹冠が信号を散乱させる3.斜面や幹が信号を乱反射させるといったことがあります。
 では森林内ではどの程度精度が落ちるのでしょうか。実際に調査してみました。GPS受信機に外部アンテナ(写真左側)を接続し、アンテナをポールの先端3mに取り付けて測定しました。アンテナの位置を上げたのは、人の体も電波受信の障害になるためです。林道から歩道、森林内と歩きながら測定していきました。
 測定した結果を図1に示します。地図上の林道等との位置関係はよくあっています。また各測点で5分間静止して測定しましたが、林内でも尾根や緩傾斜地では、誤差は±5〜±10m以内でした。しかし、傾斜が急な谷沿いや凹型の場所では測位点が大きく動いており、精度が落ちていることが分かります。GPSの測定精度に最も影響するのは地形条件だと思われます。

図1 ハンディGPSでの移動軌跡
図1 ハンディGPSでの移動軌跡

■測定位置の安定性
 GPS衛星は地球周回軌道を回っており、地上で受信機が捕らえることのできる衛星の数や天空上の位置は常に変動しており、測定精度にも影響します。ハンディGPSでは特にその影響度合いが大きいと思われます。そこで6齢級のヒノキ人工林に面した林道端にGPSを設置し、静止状態で30分間の測定座標値の変動を調べてみました。なお、比較のためハンディ機にDGPS受信機を接続しての測定も行いました(図2)。その結果、単独測位の方がDGPSに対して測定値の変動幅が若干大きくなっていますが、その差はごくわずかでした。

図2 静止状態での測定位置の分布状況(DGPSとの比較)
図2 静止状態での測定位置の分布状況(DGPSとの比較)

■ハンディGPSをどう使うか
 高性能な受信DGPS受信機は森林内でも±0.5mの精度で測定できるとのことですが、かなり高価ですし、やはり谷筋での測定は困難なようです。一方、数万円のハンディGPSの精度±10mは、五千分の一の施業図上に落とせば2mm程です。施業図にプロットする程度の位置情報としては、ハンディGPSの精度でも実用の範囲内でしょう。
 GPSの特性を十分理解した上でコンパス等とうまく組み合わせて使えば、森林資瀕管理や測量の補助等に生かすことができます。今後さらにGPSの技術は進歩していくでしょうが、そろそろ森林管理にGPSの利用を考えてみてはどうでしょうか。


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