雪のない時こそ冠雪害について考えよう
−冠雪害発生林分の調査から−

(岐阜県森林研究所)大洞智宏


写真 冠雪害の状況

【はじめに】

 最近は、地球温暖化の影響からか暖冬の年が多く、日頃の生活の中で雪に対する備えを忘れがちになります。しかし、季節はずれの雪や、予想を超える大雪で、私たちの生活に大きな支障がでることがあります。

 突然の大雪で困るのは、私たちだけではありません。山の木々にも被害が発生することがあります。そのひとつが冠雪害です。冠雪害とは、立木の枝葉に雪が降り積もり、その重さのために枝が折れたり、幹が折れたり曲がったりする被害のことです。その発生の危険性は岐阜県全域に潜んでいます(冠雪害の危険度については森のたより平成18年9月号の「冠雪害の危険度を知り雪に強いスギ林を作る」に詳しく掲載されています)。

【人工林の状況】

 さて、ここで最近の人工林の状況に目を向けてみましょう。残念なことですが、全国的に間伐の実施が遅れており、岐阜県内でも過密になった人工林を数多く目にします。過密な人工林では、立木がもやしのようにひょろひょろになり、台風や雪に対して弱くなることや、林内が暗くなるため、林床植生が減少し土壌流亡が発生するなどの問題が起きています。これらの問題を解決するため、多くの林分で緊急に間伐を実施することが必要になっています。その一方で、過密な林分を間伐した直後は、冠雪害の危険性が高くなるとの指摘があることから、間伐は慎重に行う必要があります。しかし、過密な林分を安全に間伐する方法は十分解明されていません。

【冠雪害林分の調査】

 平成17年12月には、日本海側に記録的な大雪が降り、岐阜県内にも多くの降雪がありました。この降雪によって、下呂市萩原町四美地内のヒノキ林で冠雪害が発生しました。この林は、非常に過密な状態であったため、数年前に間伐が実施されていました。調査をしてみると、平均形状比が104でひょろひょろの木が多かったことがわかりました(形状比は樹高÷胸高直径で表され、数字が大きいほど細長く、もやし状の木であることを示しています)。調査をした木の形状比ごとに被害の状況をまとめると下図のようになります。形状比が高くなるほど被害木の割合が高くなっています。このことから、形状比の高い木ほど冠雪害に弱いことがわかります。

図 形状比と被害形態

【間伐と冠雪害】

 一般に、冠雪害を防ぐには、適期に間伐を行い、形状比の低い木を育てるのが良いとされています。しかし、一度、もやし状になった林では、間伐を実施しても、残った木の形状比も高いので健全な状態になるには長い年月がかかります。さらに、この間は、冠雪害に対して弱い状態が続きます。

 今回の冠雪害は、過密な林分を急激に間伐したため誘発された可能性が考えられます。しかし、近隣には間伐を実施してあっても、被害が発生していないヒノキ林もあることから、間伐の実施と冠雪害の発生が必ず対応しているとは言い切れません。今後は、より多くのデータを集め、地形など他の要因とあわせて間伐と冠雪害の関係を検討し、過密林分で安心して間伐ができる方法を提案したいと考えています。


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