粘着剤でナラ枯れを防ぐ

(岐阜県森林研究所)大橋章博


 カシノナガキクイムシ(以下、カシナガ)によるナラ枯れ被害は、年々拡大の一途をたどっています。

 しかし、防除法として確立された手法は、NCSくん蒸剤でカシナガを殺虫する駆除法のみで、予防する手法はありませんでした。

 森林研究所では、平成16年度から粘着剤を使ってナラ枯れを予防する研究に取り組んできましたので、その概要を紹介します。

●粘着剤で被害を防ぐ?

 「粘着剤で被害を防ぐ」と聞くと、粘着剤が塗られた幹に虫がびっしりくっついている様子を想像されるかもしれませんが、そうではありません。そんなに強力では虫だけでなく人間もくっついてしまいます。粘着剤を幹に散布して表面をベタベタにすることで、カシナガがこれを嫌って穿孔しなくなる、ということをねらった防除法です。また、粘着剤と殺虫剤を混ぜることによって、殺虫剤の流亡を防ぎ、長い期間殺虫効果を発揮することも期待できます。

●散布の方法

 試験は揖斐郡池田町池田山中腹のカシナガ被害初期林分で実施しました。カシナガ成虫が発生する直前にあたる平成17年6月に、粘着剤と殺虫剤の混合液を健全木の幹に散布しました。散布には噴霧器を使用し、地際から地上高3mまでの範囲に行いました。使用した粘着剤は水性のアクリルエマルジョン系の接着剤で、断熱材や建築部材の接着に使用されているものです。また、殺虫剤はキクイムシの殺虫剤として農薬登録のあるスミパイン乳剤を使用しました。薬剤の混合にあたり、粘着剤の有効成分が50%、殺虫剤は50倍液になるよう調整しました。

 その後、カシナガの発生が終了した同年9月に、試験地の被害状況を調査しました。

●高い予防効果

 試験結果を示したのが図1です。対照区では、カシナガの穿孔を受け枯死した木(枯死木)が18%、カシナガの穿孔を受けたけれど枯死しなかった木(穿孔木)が8%、健全木が74%でした。これに対し、処理区では、穿孔木が3%発生しただけで、枯死木は全くみられませんでした。このことから、混合液を散布することで高い予防効果を得られることが実証されました。

図1.予防効果
図1.予防効果
粘着剤散布の様子
粘着剤散布の様子

 今回の予防法は単木的な方法で、広い範囲に実施するにはあまり適した方法ではありません。しかし、特定の個体あるいは地域をナラ枯れから守る場合には有効な手段となると考えます。

 今年度はさらに検討をすすめ、殺虫剤を混合せず、粘着剤だけでも同等の予防効果が得られないか、実証試験を行っています。まだ調査中ですが、もし粘着剤だけで予防効果を発揮すれば、農薬に頼らない、環境負荷の小さな防除法となります。このことは、散布コストを抑えられるだけでなく、森林ボランティアによる防除法として有望なのでは、と期待しています。


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