森林の保健休養機能
−人が居て初めて発揮される−(岐阜県森林科学研究所)井川原弘一
森林のたより 2006年3月号掲載
森林浴は保健休養機能の代名詞森林は土砂流出防止をはじめ、多くの機能があるとされています。この中のひとつである保健休養機能は、ほかとは少し違った性質があります。
保健休養機能は、森林浴やハイキングなどの森林レクリエーションをすることによって、安らぎを得たり、心身の緊張をほぐしたりする効果をいいます。この機能が発揮されるには、森林からの恩恵を受ける人の存在が不可欠です。言い換えれば、人が居て初めて発揮される機能なのです。
これは、土砂流出防止機能が、森林がありさえすれば(人が居ようが居ぬまいが)、程度の差はあれども、効果を発揮することと大きく異なります。
【森林の機能評価】
森林の公益的機能を明らかにするため、あちこちの研究機関で調査が行われています。しかし、まだまだ、県民の皆様を満足させられるようなデータは少ないのが現状です。
土砂流出防止機能を評価するには、土砂移動という現象を測定し、比較すればよいわけです。一方の保健休養機能は、人が介在して初めて発揮される機能であるため、「人がどう感じるのか」について測定し、その結果を量(数字)で表す必要があります。
【保健休養効果はどう測る】
「人がどう感じるのか」を定量的に測るにはどうしたらよいのでしょうか。
気分は、さまざまな感情状態の一つであり、ある程度の期間持続し、何らかの操作で容易に喚起できるものとされています。そのため、森林浴の前後で測定をすれば、森林浴での気分の変化を測定することができます。なお、このときに比較対照における気分状態の変化も測定しておく必要があります。
気分状態は質問紙で尋ね、それに回答してもらうことで把握する方法があります。この質問紙には数種類のものがあります。
質問紙法は主観的な評価であり、自分の状態を設問にあわせて解釈し直す必要があります。質問紙に回答するとわかりますが、これは案外難しい作業となります。そのため、最近では、この主観的な評価とあわせて、客観的な評価方法を用いることが多くなってきました。
【客観的な評価方法】
唾液採取管客観的な評価には、生理的な反応が使われます。その中でも最近の森林浴研究においては、唾液中のストレスホルモン濃度を森林浴の前後で計測することで、森林浴によるリラクゼーション効果を測定しようとしています。
最近では、(独)森林総合研究所が国内10箇所で被験者120人を対象にして行った森林浴実験において、唾液中のストレスホルモン濃度が低下するとしています。
また、全国植樹祭推進事務局と森林科学研究所が行った森林浴実験(2005年10月6日、南飛騨健康増進センター)においても、日常生活と比較して、心理的にも身体的にもリラクゼーション効果が確認されています。
今後は、保健休養林の維持管理のために、どんな森林を散策することが、あるいは、どんな形態での森林浴が、高いリラクゼーション効果を持つのかについて検討していく必要があるでしょう。
このホームページにご意見のある方はこちらまで