ヒノキ人工林と表土流出(1)
−表土流出からみたヒノキ林−

(岐阜県森林科学研究所)井川原弘一


写真1.表土流出は雨滴侵食から
写真1.表土流出は雨滴侵食から
写真2.雨裂侵食と流出した土砂
写真2.雨裂侵食と流出した土砂

■表土流出の発生

 雨が降ると、表土が露出している箇所では、雨滴による侵食が発生します(写真1)。この雨滴侵食を放っておくと土壌が雨を吸収する力が小さくなり、地表面を水が流れ、雨裂侵食が発生し(写真2)、膨大な量の表土が流出することになります。こうして流出した土砂は渓流内に堆積し、土石流の材料となったり、貯水ダムの貯水量を減らす原因となります。

■植栽樹種による表土流出量の違い

図1.上木の違いによる表土の移動

 それでは、森林の種類によって表土の流出量はどれだけ違うのでしょうか。これを調べるために、県内の主要造林樹種である、ヒノキ、スギ、アカマツ林において一年間の表土移動量を測定したところ(図1)、ヒノキ林では、アカマツ林の十八倍もの表土が移動していました。

 これは、林床の状態に起因しているものと考えられます。ヒノキの林床には、落葉層はほとんどなく、植生もない状態でした。スギの林床にも植生はありませんでしたが、スギの落葉落枝が厚く堆積していました。また、アカマツの林床には、植生が繁茂しており、これからの落葉が多く堆積していたからです。

 このように、表土の移動には、林地面の被覆状態が強く影響します。言い換えれば、表土の移動量を小さくするには、雨滴から地表面を物理的に保護することが重要となります。森林の中でその効果を期待できるのは落葉落枝層か林床植生による被覆です。

 ヒノキ林で落葉が堆積しにくいのは、ヒノキの葉は鱗片状で落葉がバラバラになりやすいためです。また、林床植生が乏しいのは、林冠がうっぺいすると林内照度が極端に低くなるためです。整備が遅れたヒノキ林の林床の状態が、表土がむき出しなのは、これらの理由からです。


■ヒノキ林の表土流出を防ぐには

図2.林床植生の違いによる表土の移動

 ヒノキ林では落葉が堆積しにくいことから、表土の保護は林床植生に頼らざるをえません。ただ、どんな林床植生でも同じような保護効果を期待することはできるのでしょうか。これを確認するために、林床植生の違いによる表土移動量を一年間測定しました(図2)。図中の地表植生とは、地表面に近い層に植生があるところを指し、低木優占とは、サカキなどの低木で覆われていますが、地表面に近い層には植生がないところを指します。

 この結果からは、植生がほとんどないところ(貧植生)では、地表植生の10倍もの表土が移動していました。また、地表面に近い層に植生があるかないかによって、表土の移動量が異なり、地表面に近い層の植生が表土の移動に影響していることが分かりました。

 次号では林床植生が乏しいヒノキ林における表土流出防止を考えた間伐方法について検討します。



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