森林セラピーの考え方
−心理効果の測定事例を交えて−

(岐阜県森林科学研究所)井川原弘一


■森林セラピーって何?

 最近、森林セラピーという言葉を耳にしますが、一体なんのことだろうと思う方も多いでしょう。これは1982年に林野庁が呼びかけた「森林浴」を発展させたものと考えればよいと思います。

 国の森林セラピー研究会では森林セラピーを『森林の地形や自然を利用した医療、リハビリテーション、カウンセリングなどをさします。森林浴、森林レクリエーションを通じて健康回復・維持・増進活動でもあります。』と定義しています。森林浴が森林内での活動をとおして、心身をリフレッシュさせたり、健康の維持・増進を図ることを目的としていたのに対し、「森林セラピー」では、医療やリハビリ行為の一助として森林を活用していきたいというものです。

 しかし、森林の医学的な効用は、科学的に証明されていないので、森林が医療現場へ活用されたという話はあまり聞きません。そのため、森林内での活動が人にどのような影響を及ぼすのか、その影響を定量的に示そうとしています。つまり、森林浴による人への効果を測定することが、森林浴が森林セラピーへと変わるために必要なことなのです。

写真.案内人との散策の様子
写真.案内人との散策の様子
写真.単独での散策の様子
写真.単独での散策の様子

■森林浴には効果があるの?

 これまででも森林浴で「何となくリフレッシュすることができた」などの感想を得ることはできましたが、これでは効果を定量的に示せたとはいえません。

 そこで、こうした森林浴によるリフレッシュ効果を心理(主観)的な側面から測定した結果を紹介します。

 森林浴の代表的な形態である森林散策は、いろいろな形で行なわれています。そこで、単独での散策(1.5km、30分)と森の案内人との散策(3km、1時間30分)における気分状態の変化について測定しました(図)。散策したコースは、いずれも南飛騨健康増進センター内にある自然体感コースです。気分状態の測定には、ポムス(POMS)と呼ばれる質問紙を使って、散策の前後での気分を比較しました。

図.気分状態の変化

 単独でのわずか30分間という散策によっても、心理的な「ストレス」が緩和され、「イライラ」も軽減されていました。また、案内人と散策したときには、これら二つの気分状態に加えて、「うつ」と「混乱」の気分状態も改善していました。つまり、森林散策の心理的な効果としては、ストレスを緩和する効果、イライラ状態を軽減する効果があるものと考えられます。

■今後の課題

 森林セラピーを展開して行くにあたっては、種々のプログラムが必要になってきます。しかし、そのフィールドを森林だけで構成することは難しいと思います。森林資源だけではなく、地域資源(史跡や温泉など)や人的資源をうまく活用できるようなプログラムをつくることができれば、森林セラピーは、農山村地域における新たなサービス産業の一端を担うことができると考えています。

 今後は、さまざまなプログラムを実践しながら、効果の測定事例を蓄積していく必要があります。


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