ナラ類の枯損被害拡がる

(森林科学研究所)大橋章博


●はじめに
 昨年、カシノナガキクイによるナラ類の集団枯損が岐阜県坂内村に発生したことを紹介しました。
 この被害は、今年になり新たに藤橋村(旧徳山地区)でも発生して、被害地域はますます拡大する傾向にあります。この被害の拡大を阻止するには、まず被害発生地域で被害実態を把握し、今後の被害動態を監視していくことが重要です。
 そこで、今回はこの被害の推移と防除方法について紹介します。

●被害の推移
 まず、被害の実態を把握するため、坂内村の被害発生林分に固定試験地を設定し、被害の推移を継続的に調査しました。この試験地の被害は平成10年に初めて確認されましたが、詳しく調べてみると林内には古い枯死木が数本みられました。これを伐倒して調査した結果、枯死した1〜2年前の年輪にカシノナガキクイの穿入孔がみられることから、少なくとも平成8年には被害が発生していたと考えられました。平成10年には被害は増大し、枯死率は35%となり、カシノナガキクイの穿入を受けた個体は71%にも達しました(図ー1)。

今年に入り、前年カシノナガキクイの穿入がみられたミズナラが全て枯死したため、枯死率は76%まで上昇し、林分内のほとんどの上層木にはカシノナガキクイの穿入がみられます。また、この試験地と川を挟んで数百メートル離れた林分ではポツポツと単木的な枯損が発生しており、周辺林分への被害の拡大がみられます。このような被害の推移はどの被害地でも共通してみられる傾向のようです。これらを整理すると、被害の推移は次のようにまとめることができます。まず、林分単位でみると、被害は単木的な枯損から始まり、2〜3年で半数以上が枯死し、3〜4年でほぼ終息する。と同時に周辺林分に被害が移行していくと考えられます(図ー2)。

 次に個体でみると、次の3つのタイプに分けることができます。1.健全木にカシノナガキクイが穿入し、その年に枯損する。2.カシノナガキクイの穿入を受けてもその年には枯れずに、翌年さらに穿入を受けると枯死する。3.カシノナガキクイの穿入を受けても枯死しない。樹種による違いもあるようで、ミズナラの多くは2のタイプが、コナラでは3のタイプが多くみられます(図ー3)。

●防除方法
 本被害がこのような発生パターンをたどり、未発生地域に順々と拡大していくことから、何らかの防除を施して被害の拡大を阻止する必要があります。しかし、集団枯損の原因と考えられるナラ菌とそれを運ぶカシノナガキクイは生活のほとんどを樹幹内で過ごすため、薬剤散布による殺菌、殺虫は非常に困難です。そのため、松くい虫防除で行われているような、枯損木を伐倒して、くん蒸処理することが有効と考えられます。しかし、カシノナガキクイは樹幹下部、とくに地際付近に集中して穿孔するために(図ー4)、

被害木を伐倒し、くん蒸処理を行っても伐根部分が発生源として残ってしまいます。このため、さらに伐根部分にドリルで格子状に穴を空け、そこに燻蒸剤を注入してやる必要があります。この処理によって、伐根内のカシノナガキクイとナラ菌をほとんど死滅させることできます。こうした作業は煩雑で大変な労力と時間を費やしますが、現時点では唯一の確実な防除法と思われます。

●おわりに
 従来、ナラ類の集団枯損被害は日本海側地域に限られていました。しかし、今年の夏には、三重、和歌山、奈良の県境でこの被害が発生しました。このことは、本被害が特定の地域にとどまらず、全国規模に拡大する危険性を示唆しています。
 今後は、この被害が第二の松枯れ被害とならないためにも、早急に被害の原因を解明するとともに、より効率的な防除技術を開発する必要があります。


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