針葉樹林を混交林に
−針葉樹人工林に広葉樹を植える−

(森林科学研究所)横井秀一


 近頃、「多様」という言葉が森林・林業を取り巻く世界のキーワードになっています。試しに、インターネット上のWebサイト(国内)を"森林"and"多様"で検索してみたところ1,254件が、また"林業"and"多様"では504件がヒットしました。これだけの情報が発信されている背景には、ニーズの多様化に対応した森林造成・森林管理が求められていること、更には、その一つとして森林と生物多様性についての議論が活発になっていることがあります。
 話がいささか大きく始まりましたが、ここではニーズの多様化に対応した森林造成の手法の一つ、針広混交林を造成する目的で針葉樹人工林内に広葉樹を植栽するときに気を付けたいことをお話しします。

●針葉樹林に広葉樹を植える
 針葉樹人工林内に広葉樹を植栽する場面には、森林の保健休養機能や風致機能を高めたいとき、あるいは諸害が原因で健全性が低下した林分の健全化を図りたいときなどがあります。特に前者の場合には、順調に育っている森林に手を加えるわけですから、目標とする森林を確実に成立させることが強く求められます。しかし、適切な技術指針がないため、現場ではいろいろと苦労があるようです。

●試験の結果から
 森林科学研究所では、清見村でヒノキ人工林内に広葉樹を植栽する試験を行っています。施業の目的は、雪害が原因で生じたヒノキ不良木を広葉樹に置き換えることによって、森林の健全化を図ることです。一方、試験としての目的は、どの程度の空間があれば林内に植栽した広葉樹が育つのかを知ることにあります。
 この試験では、形質が悪いヒノキを伐倒し、それによって生じた疎開地を中心に広葉樹を植栽して、その成長を記録しました。設定時のヒノキは、平均胸高直径が16.8cm、平均樹高が10.3mでした。植栽した広葉樹は、ケヤキ、ホオノキ、カツラ、ウダイカンバ、ミズメ、ブナの6種です。以下に示すのは、広葉樹を植栽してから5年目の結果です。

 図−1は、広葉樹一本一本について、それが置かれている環境と樹高との関係を示したものです。広葉樹が置かれた環境は、その木から最も近いヒノキ2本までの距離の平均で表しました。この図では、ケヤキとカツラに着目してください。両樹種とも、ヒノキの近くに植えられたものは樹高が低く、ヒノキから3〜4m以上離れると樹高の高いものが多くなりました。このことは、ケヤキやカツラを樹高10m程度のヒノキ林内に植栽するときは、半径が3〜4m以上ある空間に植えなければ良い結果が望めない、ということを示唆しています。
 残念ながら他の樹種では、本数が少ないものもあり、はっきりとした傾向は読み取れませんでした。ケヤキとカツラについても、まだデータが少なくて、きちんとした結論を出すには至っていません。しかし、他県における同様の試験でも、広葉樹の樹下植栽には大きな林冠の疎開が必要であることがわかってきています。

●林内に広葉樹を植えるには
 これまでに得られた情報を整理すると、広葉樹を針葉樹人工林内に植栽するときには、まとまった面積の更新面を確保することが最も重要であるといえそうです。
 スギやヒノキを林内に植栽するときには、間伐・枝打ちで林内全体を明るくするのが一般的です。こうした複層林造成的な手法が広葉樹の場合には使えない、ということです。このことは、皆伐跡地には高木性の広葉樹が多数更新するのに、間伐して明るくなった程度の林内では低木性樹種や草本は増えても高木性樹種が更新することはほとんどないこと、すなわち、高木性広葉樹の更新にはかなり強い光が必要であるということを考えれば、得心がいくのではないでしょうか。
 針葉樹人工林に広葉樹を導入する場合には、上木を均等に間伐して林内全体に広葉樹を配置するのではなく、まとまった面積を群状に伐採して、そこに集中的に広葉樹を植栽しなければなりません。その面積は、植栽する樹種や上木の樹高にもよりますが、最低でも50m2、できれば100m2以上必要だと考えています。


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