岐阜県にナラ類の集団枯損被害発生

(森林科学研究所)大橋章博


●はじめに
 近年、日本海側の各地で、ミズナラやコナラが集団で枯れる被害が発生し、大きな問題になっています。テレビや新聞などでも盛んに取り上げられているのでご存じの方も多いかもしれません。現在、この被害は山形、新潟、福井、石川、滋賀、京都、兵庫、鳥取、島根の日本海側の各県で発生し、いずれも大きな被害となっています(図−1)。


図−1.ナラ類枯損被害の分布

 さいわい岐阜県では、この被害は確認されていませんでしたが、隣県の滋賀、福井、石川県では既に発生し、本県への侵入は時間の問題とされていました。やはりこの危惧は的中し、今年になって、揖斐郡坂内村で広い範囲にわたって被害が発生しているのが確認されました。
 そこで今回は、この被害の概要について、他県の情報などを交えながら紹介します。

●被害の特徴
 この被害は7月下旬から8月上旬に、コナラやミズナラの葉が赤くなり、集団で枯死するのが特徴です。丁度、マツの材線虫病で枯死した松のように夏期に急激に変色するので、遠くからでも被害が確認できます。
 枯死したコナラやミズナラの樹幹部には例外なく1ミリ程度の小さな穴が多数みられ、地際部にはおびただしい量の木くずが落ちているのが特徴です(写真−1)。


写真−1.カシノナガキクイムシの穿孔と排出された木屑

 この穴はカシノナガキクイムシが穿入した穴で、地際部の木くずはその穴から出された虫糞です。

●カシノナガキクイムシの生態
 カシノナガキクイムシは体長4.5mm、暗褐色で、細長い円筒形をしています(写真−2)。この虫の仲間は養菌性昆虫と呼ばれ、雌の背中に菌を貯蔵しておく器官を持っています。雌成虫はこの胞子貯蔵器官の菌を穿入孔内に接種し、産卵します。孵化した幼虫はそこで繁殖した菌を食べて生育します。


写真−2.カシノナガキクイムシ成虫

●被害の実態
 被害が発生した林分を調査した結果、枯損しているのはコナラとミズナラに限られ、他の広葉樹では発生していませんでした。
 カシノナガキクイムシの加害を受けた木は、いずれも被圧木ではなく上層木です。また、直径の大きい木ほどカシノナガキクイムシの穿入数が多い傾向がみられました。
 穿入孔は樹幹の地際部から高さ2m程の範囲に多く見られ、それより上部にはほとんどみられませんでした。また、穿入孔の密度は100cm2当たり0.5〜1.0個でした。
 また、調査地内にはカシノナガキクイムシに加害されても枯れずに生き残っている木が多く見られました。これらの木については翌年再びカシノナガキクイムシの穿孔を受けて枯死するか、それともこのまま枯死せずに被害が終息するのか観察を続けていく必要があります。

●菌類の関与
 枯死した木を割材すると、カシノナガキクイムシの孔道に沿って変色が見られます。この変色部から菌の分離を行うと、ナラ菌と呼ばれる菌が分離されます。現在、この菌が病原菌であるか否かを確かめるため、接種試験を行っています。当研究所内のコナラ小径木への接種結果では、葉の萎凋した個体が数本見られたものの、枯死にまで至った個体は見られませんでした。しかし、同様の方法で他の試験場が行ったミズナラへの接種試験では枯死した事例がみられることから、この菌がある程度の病原性を持っていることは確かなようです。

●おわりに
 これらのことから、ナラ類枯損の発生機序として次のようなことが考えられます。
(1) 病原菌(ナラ菌?)を持ったカシノナガキクイムシが健全木に穿孔する。
(2) 材内に侵入した病原菌が通道組織を犯し、通水阻害を引き起こす(萎凋)。
(3) 木は衰弱し、キクイムシの多数の穿孔を受け、ついには枯死する。
 しかし、この仲間のキクイムシは衰弱木に穿入し、健全木には穿入しないと言われています。そうなると、カシノナガキクイムシがナラ類に穿入する以前に、ナラ類が衰弱していることになるのですが・・・。はたして松の材線虫病のように昆虫と病原微生物との共同戦略があるのか、今後はこれらの興味深い関係について調査していくつもりです。


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