ナツメてんぐ巣病被害広がる


(林業センター)大橋章博



はじめに
 ナツメは、飛騨地方の農家の庭先でよくみかける果樹です。この地域では、秋になると実の重さで垂れ下がっているナツメが方々で見られ、秋の代表的な風物詩となっています。ナツメの実は生で食べても、砂糖煮やジャムにしても美味で、そのうえ薬用にも利用されるなど大変重用されています。
 ところで、ナツメの原産地である中国や韓国では、ナツメにてんぐ巣病が発生し、大きな被害を及ぼすことが知られています。しかし、わが国では福井県で発生した記録があるにすぎませんでした。
 ところが、最近、本病が県下各地のナツメに発生していることが確認されました。そこで、今回は、あまり知られていないナツメてんぐ巣病の概要と、本県の被害状況について紹介します。


てんぐ巣病徴

原因はファイトプラズマ
 ナツメてんぐ巣病を知っていただくため、まず、てんぐ巣病について説明します。
 てんぐ巣病というのは、枝がほうき状に細かく枝分かれして鳥の巣のようになる病気です。この特徴的な姿をてんぐの巣に見立て、こうした症状の病気はてんぐ巣病と呼ばれるようになりました。
 てんぐ巣病はいろいろな樹木に発生しますが、病気の原因は様々です。例えば、サクラのてんぐ巣病はカビの一種のタフリナ菌が、モミ類のてんぐ巣病はさび病菌が病原菌です。しかし、今回紹介するナツメてんぐ巣病は、これらとは異なるファイトプラズマという微生物によっておこる病気です。
 ファイトプラズマ(写真)は、ウイルスと細菌の中間の大きさの微生物で、ウイルスや細菌とは自己増殖能力を持つことや細胞壁を持たないことで区別されます。


師管内のファイトプラズマ
(電子顕微鏡による)

 従来、ファイトプラズマは、マイコプラズマ様微生物と呼ばれていましたが、最近の研究からマイコプラズマとは異なることが解ったため、新たに名前が付けられました。

19市町村に発生
 岐阜県に発生しているナツメてんぐ巣病の被害実態を把握するため、被害の有無や被害程度について調査しました。その結果、被害の発生している地域は19市町村に及び、県下各地に広く分布していることが確認されました(図ー1)。被害は場所によって大きく異なり、美濃地方より飛騨地方で被害が多く見られ、特に国府町、萩原町で多発しているのが確認されました。


図−1.岐阜県におけるナツメてんぐ巣病の被害分布

 また、各地域とも樹齢の高い個体に多く発生し、若木の場合はほとんどが本病に感染している親樹から根萌芽した個体でした。
 本病の特徴は、まず、葉に黄色の斑紋が現れます。病気の進行とともに、一部の枝が萎縮し、葉が黄色に変色したり、小さくなったりし、不定芽を多数分化して、いわゆるてんぐ巣状を呈します。さらに病気が進行すると枯死するものもみられます。また、てんぐ巣症状がみられる枝では、開花、結実が見られなくなります。

昆虫によって伝搬
 一般に、ファイトプラズマは吸汁性昆虫によって伝搬されることが知られています。このため、本病の場合も昆虫による伝搬が考えられたので、罹病木に生息している吸汁性昆虫について調査しました。その結果、クサギカメムシ、チャバネアオカメムシ、ヒシモンヨコバイ、ミドリヒメヨコバイの4種が確認されました。
 そこで、これらの昆虫が体内にファイトプラズマを持っているかどうかを調べてみました。ニチニチソウはファイトプラズマで容易に発病することから、検定植物として用いました。ニチニチソウでこれらの昆虫を飼育した結果、ヒシモンヨコバイに吸汁させた場合にファイトプラズマ病特有の病徴が現れました。
 このことから、ナツメてんぐ巣病はヒシモンヨコバイによって伝播されると考えられます。

おわりに
 ナツメてんぐ巣病は、ファイトプラズマが樹全体に広がっておこるため、サクラてんぐ巣病のように被害部を取り除くだけでは防除はできません。一度発病してしまうと、治癒することはできないのです。したがって、現時点では、昆虫による伝搬を阻止するため、殺虫剤を効果的に散布するのが最も有効な防除法と考えられます。


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