森林の利用目的に応じた立木密度
−レクリエーション空間として利用するために−


(林業センター)井川原弘一


 近年、余暇時間の増大とライフスタイルの変化に伴い、森林の持つ保健休養機能に対する都市住民の期待は非常に高まっています。こうした期待を受けて、身近な森林を有効に利用するために、環境林を整備する様々な事業が行われるようになりました。
 しかし、森林をレクリエーション空間として利用する際の立木密度に関する研究事例は少なく、確立された整備指針も示されていません。そこで、立木密度の異なるシミュレーション画像を用いて、心象評価実験を行い、レクリエーション空間に適した立木密度について検討しました。

○シミュレーション画像の作成
 対象地は、つくば市にあるコナラとアカマツを主体とした平均直径16cm程度の林分でした。一般に広葉樹は萌芽更新し株立ちする傾向があるので、この有無が景観に大きく影響します。この林分でもコナラは全て株立ちしていました。
 そこで、密度だけでなく、株立ちの有無によって、印象がどう変わるか把握するために、表1に示す5種類のシミュレーション画像を作成しました。

表1.シミュレーション画像の特性
画像名称本数密度
(本/ha)
個体密度
(個体/ha)
管理方法
現況1300729現況
1000個体18431000株立ち
1000本1000729一本立ち
500個体943500株立ち
700本700700一本立ち
300個体614300株立ち

 表中の管理方法とは、株立ち木を主体とするのか一本立ちを主体とするのかが示してあります。また、立木密度を本数密度(直径が測定できるものは1本)と個体密度(株立ち木は1個体)の2通りで示しました。シミュレーション画像を写真1、2に示します。

写真1.700本
写真2.500個体
○心象評価実験
 心象評価実験には、好まれる立木密度を順位付けするために一対比較法を用いました。一対比較法とは、順位付けしたい画像を全ての組み合わせで比較してもらい、順位付けをするものです。
 森林公園などで最も日常的に行われるレクリエーションは散策であるという報告があります。そこで「散策しているときに見られる風景としてどちらの画像が好ましいか」という基準で比較してもらいました。心象評価は、森林総合研究所の職員31名を対象に行いました。

○心象評価の結果
 一対比較法の結果を図1に示します。


図1.好ましさと立木密度の関係

本数密度との関係を見てみると500個体、1000本、現況の本数密度で943〜1300本/haにかけてが好まれ、それよりも密度が疎でも密でも評価が低くなることがわかります。また、個体密度との関係では、500〜729個体/haが好まれました。700本はこの範囲内にあるにも関わらず、低い評価でした。この理由としては、全てが一本立ちの画像であることが考えられます。
 これらのことから、林内景観の好ましさを変える要因は、視野に占める樹幹の割合にあるのではないかと推測し、ha当たりの胸高断面積の合計値と好ましさとの関係を見てみました(図2)。


図2.好ましさと胸高断面積の合計値との関係

この図を見ると28〜35m2/haを頂点として山型を成し、それより多くても少なくても、好まれなくなっていくことが、わかります。

○好まれる立木密度
 森林をレクリエーション空間として利用する際の立木密度について検討してきた結果をまとめます。
 @本数密度の疎や密な林分は、好まれませんでした。
 A平均直径16cm程度の林分においては、株立ち木が混在している方が好まれました。
 Bha当たりの胸高断面積の合計値が30m2/ha程度の林分が好まれました。これは例えば、平均直径50cm程度の林分では、本数密度が150本/ha程度となります。このように、胸高断面積の合計値を指標として森林づくりができる可能性を示しています。
 この研究を岐阜県で活用するためには、県内でのデータを多く収集し、さらに検討を進めていく必要があるでしょう。


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