くず、屑、葛、クズ


(林業センター)茂木靖和


「くず」について
 「くず」をワープロで変換してみます。漢字で「屑」と「葛」、カタカナ変換をして「クズ」となります。

「屑」について
 「屑」を辞書で調べると、意味は「何の役にも立たないもの」で、「紙屑」、「人間の屑」といった使い方をするとあります。

「葛」について
 「葛」は、秋の七草の一つに数えられ、万葉集や古今和歌集でうたわれる等、古くから人に親しまれています。また、根を乾燥した葛根(かっこん)と称するものを漢方で解熱薬として利用する等、人との結びつきが大きい植物です。

「クズ」について
 「葛」を植物図鑑等で調べると和名「クズ」、中国名「葛」とでています。従って、今後、植物の名前を指す時は「クズ」と表現していきます。
 クズは、温帯、暖帯に広く分布するマメ科のつる性多年生植物で、山間部の道路法面や荒れ地等、日当たりの良い場所でみることができます。性状はきわめて強健で、ほとんど土地を選ばずよく生育します。また、種子だけでなく、つるからの発根、萌芽によっても繁殖するため、野一面クズで覆われることがあります。

クズと林業
 周りに何も無い場所では、クズは地面の上を這っているだけです。しかし、立木等地面から立ち上がったものがあると左巻きにからみつきます。
 造林地では、クズが造林木の幹を締め付けたりその茎や葉で造林木全体を被覆したりして被害を起こします。被害は下刈り終了時から林分の閉鎖初期に著しいといわれています。林業の立場からすると、クズは何の役にもたたない屑以下のものといえます。

クズの被害対策
 被害対策はつる切りが行われます。つる切りは、一般に、切離し法、掘り取り法、薬剤処理法が行われています。
 切離し法は、つるをナタ等で切断するだけですので労力は軽くて済みますが、クズのように萌芽力の強い植物には一過性で効果は大きくありません。
 掘り取り法は、つるの発生する根株を掘り取ってしまうので効果は大きいですが、労力が重くなります。
 薬剤処理法は、一般に、労力と効果が切離し法と掘り取り法の間になります。現在は、労力をより軽く、効果をより大きくするための薬剤が研究されています。
 当林業センターでも、林業薬剤協会の依頼を受けて、クズの薬剤処理試験を行いましたのでその結果を紹介します。

クズの薬剤処理試験

1.供試薬剤
 YY-1065塗布剤(以下塗布剤)
 AK-01液剤(以下液剤)

2.標準処理量
 標準処理量は表−1のとおりです。なお、塗布剤は標準処理量と2倍処理量で試験しました。また、液剤は原液処理と50%液処理で試験しました。

表−1 標準処理量
つる径薬剤名
YY-1065塗布剤AK-01液剤
2.0cm以下1.0g0.5ml
2.1〜3.0cm1.5g1.0ml
3.1〜4.0cm2.0g1.5ml

3.処理位置
 つる切りの薬剤処理は、普通、効果を大きくするために直接株頭を処理します。しかし、今回は、労力を軽減するために株頭から立ち上がったつるの高さ50〜100cmの位置で処理しました。

4.処理方法と処理時期
 つるの外皮を料理用の皮剥き器で剥ぎ、その部分に薬剤を処理しました。塗布剤の場合、所定量の薬剤をチューブから押し出し、チューブの先を使って全面に延ばしました。液剤の場合、ピペットで所定量を取り、こぼれ落ちないようゆっくりと全面に滴下しました。また、薬剤処理の対照として、なたを使って切離し処理をしました。
 処理は、5月の下旬または10月の初旬に行いました。

5.試験結果
 一冬越した7〜9月の調査結果を表−2に示しました。調査は、株頭が完全に枯死した「枯死」、一部枯死した「半枯死」、枯死が全く認められない「健全」の3段階で行いました。なお、「半枯死」と「健全」個体については、今後の被害に影響する萌芽つるの発生も調査しました。

表−2 試験結果
薬剤名YY-1065塗布剤AK-01液剤
処理名標準2倍原液50%切離し
枯死15%90%46%53%7%
半枯死35%0%27%20%0%
健全50%10%27%27%93%
萌芽有25%5%13%20%60%

 塗布剤は、処理量を標準の2倍にすると効果が大きくなりました。液剤は、原液処理、50%処理とも効果にほとんど差がありませんでした。また、2種類の薬剤は、塗布剤が処理量により効果が異なることから、どちらが勝っているかはっきりしませんでした。
 対照の切離し処理は、株頭が枯死せず6割りの個体から萌芽つるの発生が認められました。長期間の処理効果は期待できません。

おわりに
 アメリカでは、クズの葉の栄養価が高いため、クズを家畜の飼料として利用しています。もし、クズが樹木に巻き付きさえしなければ、日本の林業において悪者にならなかったはずです。それどころか、土壌を肥えさせる肥料木として造林木と一緒に植栽されるようになったかもしれません。結局、クズが自然環境の中で生きていくために身につけた、樹木に巻き付くといった性質が、林業という人間の社会環境に合わなかったということでしょうか。
 最近、いじめや暴力により、登校拒否や学校から排除される子供が増えていると聞きます。原因は、子供達の生活環境や現在の社会環境の影響が大きいようです。私達大人は、子供達が人間の屑にならないような環境を作っていく必要があります。


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