淡墨桜は今なお樹勢が旺盛
−淡墨桜の健康診断結果から−

(林業センター)野平照雄


 この度、林業センターより「淡墨桜の生命力と“桜守”」が発刊された。これは林業センター、岐阜大学、森林総合研究所などの研究員が根尾村より依頼されて、淡墨桜の健康度を調査し、それをまとめた報告書である。
 調査は淡墨桜の、概要把握、樹体調査、立地条件など多項目に及び、これらの結果から現状の評価と今後の保護対策のあり方について検討した。私もこの調査の一員として携わってきたので、この調査概要の一部を紹介する。

樹体調査
 今回の調査で、まず淡墨桜の正確な大きさを測定した。その結果、高さが17m、枝張りは東西方向が27m、南北方向が21mであった。また、幹の周囲は最も太いところで12mと予想以上に大きかった。樹幹部は凸凹が極めて願著で荒々しい表情を見せ、1500年の年数を映し出すに十分な風格をそなえていた。また、腐朽によって枯死している部分もあり、幹部の形状を維持していく上で、かなり問題であるように思われた。しかし、生存部分の樹皮はエドヒガンの特徴ともいえる樹皮の割れ目が明瞭で、樹勢自体は旺盛であることを伺わせた。樹幹内部は腐朽が進行し、大きな空洞となっている。このまま進めば幹が開口することも懸念されるので、この腐朽部分をどうするかが、重要課題であると思われた。

成長調査
 淡墨桜の樹勢を把握するため、年輪幅を調べた。その結果、昭和29年頃から急激に減少し、40年には最も狭く1mmに満たなかった。その後、再び増加傾向がみられ、現在は2,3mmで推移していることから、以前よりは樹勢が回復しているように思われた。
 枝の伸長量は30cm以上も伸びているものも見られることから、現時点での淡墨桜は旺盛な成長をしているものと思われる。また、樹木は樹勢が弱まってくると、樹冠に穴があいてくることが多い。しかし、現在の淡墨桜は樹冠が茂って、以前に枯れた枝が目立たなくなっていることから、樹勢の良い期間がしばらく続いているものと考えられた。

根系部の調査
 淡墨桜の根は根腐れを起こしているところが何ケ所か見られたものの、表層5cm部では細根が多く、その範囲は20m四方に及んでいるのが確認された。しかし、垂直分布は下層部の根ほど腐食が激しいことから、下層にあった根が枯死し、その上に新しい根が発達するという経過を繰り返してきたように思われた。また、昭和24年に行われた根接ぎ部の現況についても調査した。その結果、当時親指ほどだったという根は周囲40cmまでに成長し、細根が多数伸びていた。このことから、淡墨桜に対する根接ぎによる樹勢回復は有効であったと考えられた。

病害虫調査
 樹木の病害虫で最も恐ろしいのはカミキリムシ等の穿孔虫被害である。淡墨桜にはこれら穿孔虫による加害跡が多数見られるものの、いずれもかなり前に発生したものばかりである。このため、この被害に対する防除対策は特に必要ないものと考えられる。しかし、葉を食害する食葉性昆虫が多数生息しているのが確認された。これらの種が大発生すると丸坊主になったり、葉が変色するなどして美観が著しく損なわれる。このため、淡墨桜を観光資滞として利用しながら保存して行くには、こられ病害虫被害の早期発見、早期駆除に努めることが必要である。

おわりに
 以上、調査概要の一部を紹介した。これ以外にも多項目にわたって調査しているので、いずれかの機会に報告したい。手前味噌で申し訳ないが、この調査は科学的で極めて充実した内容を備え、しかも歴史的に貴重な資料も収集しているので、後世まで残る報告書だと自負している。是非、一読していただきたいものである。


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