森林散策によって人の気分はどう変わるのか
―心理状態の定量的な測定―

井川原弘一


■森林浴の効果

 森林浴の効果は
  1.保養効果
  2.体力増進効果 に分けて考えましょう。

 1982年に林野庁が「森林浴構想」を提唱して以来、20年あまりで森林浴という概念は私たちの間に広く浸透しました。
 岐阜県では、この森林浴による保健休養効果を県民の健康の維持増進に役立てようと1996年から南飛騨地域に広域森林保養圏構想を立ち上げました。そのモデル地区として2004年春に下呂市萩原町四美に南飛騨健康増進センターがオープンしました。
 しかし、残念なことに森林の持つ保健休養効果は、何となく心身のリフレッシュができるという認識があるにすぎず、定量的に計られた事例は少ないのが現状です。
 ここでは、“心が和む”とか“落ち着く”、“安らぐ”といった気分状態を定量的に測定することで、森林の持つ心理的な保養効果について検討しました。

■気分状態の調べ方

■写真1 POMS(ポムス)用紙
■写真1 POMS(ポムス)用紙

 気分状態を定量的に調べる方法には、POMS(ポムス)と呼ばれる質問紙があります(写真1)。この質問紙はスポーツ分野や企業などにおいてメンタル管理のためによく使われています。
 POMS(Profile of Mood States)は、「すぐにかっとなる」、「緊張する」、「不機嫌だ」などの65項目について、現在の気分状態を答えることで、「緊張・不安」、「抑うつ・落込み」、「怒り・敵意」、「活気」、「疲労」、「混乱」の6つの気分状態を定量的に把握することができます。


■案内人と森林散策したときの気分変化

 20〜40代の県庁勤務の職員20人(男14人、女6人)を対象に10月13〜15日に南飛騨健康増進センター内の森林散策路(下呂市萩原町四美:写真2、4)と岐阜市薮田南地内の街中(写真3)で気分状態を調べました。
 森林散策は南飛騨健康増進センター主催の健康体験講座「森を歩こう(森の案内人がついた散策)」で実施しました。散策コースは約3kmを90分で歩くように設定しました。

■写真2 健康増進センター内での森林散策
■写真2 健康増進センター内での森林散策
■写真3 岐阜市薮田南での街中散策
■写真3 岐阜市薮田南での街中散策
■図1 POMSの結果 (20人の平均値を示す)

 POMSの結果について図1に示します。森林散策後は、「緊張・不安(ストレス指標)」、「抑うつ・落込み(うつ指標)」、「怒り・敵意(イライラ指標)」、「混乱」が明らかに低下していました。
 また、うつとイライラの両指標は、森林散策の方が街中散策より小さくなっていることから、案内人といっしょに森林散策をすることは、うつ状態の解消とイライラの軽減に効果が高いと考えられます。

■一人で森林散策したときの気分変化

 11月4、5日に20代の男子学生12人を対象にして、一人で散策したときの効果を調査しました。散策は10月と同じ場所で行ない、1.5kmを30分かけて歩くように設定しました。
 POMSの結果は、「緊張・不安(ストレス指標)」が森林散策では低下し、さらに、森林散策の方が街中散策よりも明らかに小さくなっていたことから、森林散策は、街中を散策するよりも、心理的なストレス緩和効果があると考えられます。

■気分状態に影響するものは?

■写真4 森林はいろいろな構成物から成り立つ
■写真4 森林はいろいろな構成物から成り立つ

 POMSと同時に散策空間の「自然らしさ」、「快適感」、「好み」についても評価しました。
 この結果、案内人といっしょに散策したときは、「抑うつ・落込み(うつ指標)」と「快適感」の間に負の相関がみられました。
 一人で散策したときは、「怒り・敵意(ストレス指標)」と「自然らしさ」、「好み」との間に負の相関がみられました。したがって、気分状態の変化には、散策空間から受ける「快適感」や「自然らしさ」、散策空間に対する「好み」が影響すると考えられます。



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