ヒノキ林の土壌侵食を抑えるために
−間伐作業時にできること−(岐阜県森林科学研究所)井川原弘一・渡邉仁志・横井秀一
■岐阜県のヒノキ人工林
間伐のされていないヒノキ林では,土壌侵食が発生するなど水土保全機能の低下が大きな問題になっています。これは林内照度の低下にともなう林床植生の衰退に起因するものです。
東濃桧を流通銘柄にもつ岐阜県は,民有人工林面積の58%をヒノキが占めています。この割合は全国平均26%を大きく上回ることから,岐阜県にはヒノキ林が多く,土壌侵食の危険性の高い林がたくさんあることが推察されます。林床植生の発達をうながすために,現在,間伐が積極的に実施されていますが,林床植生が発達するのに必要な期間については明らかにされていません。そこで,間伐作業直後から土壌侵食を抑えるための間伐木の処理方法について検討しました。■試験地の概要
- 下呂・小川長洞国有林内のヒノキ林(38年生)。
- 2002年3月に本数率で30%の間伐。
- 間伐後の平均胸高直径は22cm。
- 間伐後の平均樹高は17m。
- 間伐後の立木密度は1310本/ha。
- 林床植生はほとんどなく,林地面にはヒノキからの落葉落枝しかない。
- 2002年6月,この林内の伐倒木を整理することで,図−1に示す3つの試験区を設定。
図−1 試験区の模式図 積上区
保安林整備事業で行われているように伐倒木の樹幹から枝葉を払い,樹幹を玉切った後で,枝葉もあわせて林地内に積上げ整理した。
散布区
伐倒木の樹幹から枝葉を払い樹幹を等高線方向に整理し,樹幹の間には払った枝葉をまんべんなく,散布した。
放置区
伐倒後そのまま放置した。■土壌侵食量の測定
写真 土砂受け箱の設置状況
- 土壌侵食量の測定のため土砂受け箱を試験区に5個ずつ直線上に設置。
- 箱は幅25cm,高さ15cm,奥行き20cmのステンレス製(写真)。
- 毎月15日前後に箱の中の土砂を回収。
- 回収した土砂は細土,礫,有機物に区分し,乾燥重量を測定。
■落葉被覆面積率の測定
- 土砂受け箱の直上部50cm×50cmの落葉被覆面積率を測定。
- ここでの落葉はヒノキなどの落葉落枝であり,ヒノキのバラバラになった鱗片葉は土壌侵食防止効果がないものとして面積に含めていない。
■間伐木の処理方法と土壌侵食量
1年間(2002年8月〜2003年7月)に地表面を移動した土砂の重量は次のとおりでした(図−2)。
図−2 間伐木の処理方法別の移動土砂量
- 土砂量は放置区>積上区>散布区。
- 放置区は散布区の約4倍の土砂が移動。
細土重量(崩落や風の作用に影響されないため土壌侵食量の一般的な指標)は次のとおりでした。
- 細土重量は放置区>積上区>散布区。
- 放置区は散布区(79g/m・yr)の約9倍の細土が移動。
■土壌侵食量に違いが生じた理由
細土重量に大きな違いが生じた理由を落葉被覆面積率と土砂受け箱の細土重量との関係(図−3)から考えてみます。
図−3 落葉被覆面積率と細土重量の関係
- 落葉被覆面積率が45%を下回ると細土重量が多く,50%を超えると細土重量が少なかった。
→落葉被覆が土壌侵食を抑えることがわかります。- 散布区は落葉被覆面積率が70%よりも大きいところに多く,積上区と放置区は50%よりも小さいところに多かった。
→枝条散布は土壌侵食を防止する効果があると考えられます。- 細土重量を積上区と放置区とで比較すると,落葉被覆面積率が同じくらいのときには,放置区で細土重量が多い傾向。
→整理した樹幹は細土移動を抑止する効果があると考えられます。
■林床植生の発達
過去の研究事例の中に,林床植生のないヒノキ壮齢林の土壌侵食量は,林床植生のあるヒノキ壮齢林の10倍であったという報告があります。
このことから考えても,すぐにバラバラになってしまうヒノキの落葉に地表面の保護を頼るよりは,林床植生の発達をうながした方が地表面の保護には効果的であると考えられます。しかし,間伐後,ほぼ2年を経過したこの試験地でも,植生は発達していません。■どう整備すればよいのか
植生の発達をうながすために間伐作業を行う必要があります。現状では,間伐作業の直後から土壌侵食に対して効果のあがる間伐木の処理方法を選択することがベターだと考えられます。
そのためには,をお勧めします。
- 枝条を散布すること。
- 伐倒木は等高線方向にできるだけ整置すること。
- 伐倒木を積上げ整理しなくてはならない場合でも枝条は林地面に散布すること。
■謝辞
試験地をご提供いただいた中部森林管理局名古屋分局と試験区設定時にご協力いただいた中部森林管理局名古屋分局森林技術第二センターの関係各位に感謝いたします。
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