速報!2002年秋の異常降雪による広葉樹冠雪害

(岐阜県森林科学研究所)横井秀一・茂木靖和


□広葉樹の冠雪害
 2002年10月下旬から11月上旬にかけて,例年にない早い時期にまとまった降雪が岐阜県北部にありました。この雪は,普段あまり見かけないタイプの冠雪害を引き起こしました。
 樹木の冠雪害といえばスギに発生することが最も多く,記憶に新しい2002年1月上旬に県下で発生した冠雪害の被害林分も多くはスギ林でした。
 ところが,今回の冠雪害は主に落葉広葉樹に発生しました。広葉樹の冠雪害自体は,特に驚くことではありません。雪で枝の折れたコナラやクリ,幹の湾曲したシラカンバがしばしば見受けられるからです。しかし,今回の広葉樹の冠雪害は,これまでにない規模で発生しているようでした。
 こうした希な現象の記録は,様々な意味で重要です。例えば,将来同じようなことが起きたときに参照することができるでしょう。雪と森林の関係を考える契機になり,新たな発見ができるかも知れません。そこで,まずは被害の発生地域と特徴を把握しておこうと,調査を行いました。

□調査の方法
 調査は,被害が予想される地域を自動車で走りながら,被害地点と被害状況を記録するという方法で行いました。被害地点の記録には,GPSレシーバーを使いました。被害状況は,被害樹種と被害形態(梢端折れ,枝折れ,大枝折れ,幹折れ,幹曲がり,根返り),被害規模(単木,小集団,集団)の概略を記録しました。
 調査は,2002年11月21〜22日と11月29日,12月17〜18日に行いました。自動車で走った行程は,図−1に示すとおりです。

□被害樹種と被害の形態
 今回の調査で確認された被害木はコナラが最も多く,その他にはクリ,ミズナラ,シラカンバ,ヤマハンノキ,サクラ類,シナノキ,ミズキなどにも被害が発生していました。針葉樹でも,アカマツやカラマツの被害がところどころで観察されました。しかし,スギの被害はごくわずかでした。
 被害形態で多かったのは,梢端折れ(写真−1)や枝折れといった樹冠の一部を欠く被害でした。これらの被害はどの樹種にもみられました。樹冠を大きく欠く大枝折れはコナラとクリに,幹折れ(写真−2)はコナラに,幹曲がりはシラカンバに目立ちました。コナラの根返り(写真−3)も何カ所かでみられましたが,これは他の被害形態に比べると低い発生頻度でした。

写真−1コナラの梢端折れ(神岡町)
写真−1 コナラの梢端折れ(神岡町)
写真−2コナラの幹折れ(清見村)
写真−2 コナラの幹折れ(清見村)
写真−3コナラの根返り(丹生川村)
写真−3 コナラの根返り(丹生川村)

□被害地の分布
 調査で確認できた被害地を図−1に示します。被害は,岐阜県北部の広い範囲で確認できました。
 被害規模は,単木被害(林分内に被害木が単木的に散見)が大半でした。小集団被害(数本の単位で群状に被害)や集団被害(10本を超える規模でのまとまった被害)が多かったのは,高鷲村の蛭ヶ野周辺,古川町から神岡町にかけての数河峠周辺と神原峠周辺,神岡町の山之村でした。

図−1広葉樹冠雪害の被害地の分布
図−1 広葉樹冠雪害の被害地の分布

□広葉樹冠雪害の原因
 普段はあまりみられない広葉樹の冠雪害が,今回は広い範囲にわたって高頻度で発生しました。これは,異常に早い時期にまとまった降雪があったことによります。河合村や白川村などでは,11月2日から6日にかけてと9日から10日にかけて積雪深の増加がみられ,その間に降雪があったことがわかります。そのころ,奥山は紅葉の盛りを迎え,里山ではまだ紅葉が始まっていませんでした。すなわち,落葉樹がまだ葉を付けているときに降雪があったのです。このことが樹冠の着雪量を増やし,今回の冠雪害につながったものと考えられます。
 広葉樹の冠雪害は,1988年と1995年にも目立ちました。どちらの年も11月10日前後に高山で初積雪が観測されており,今回と同じように着葉期に降雪があったことがわかります。
 広葉樹の冠雪害は,スギの冠雪害ほど注目されることはありません。しかし,被害の形態や規模によっては林分構造や木材としての価値に影響があるのは,どちらも同じです。そのことを考えると,広葉樹の冠雪害も無視できる存在ではありません。


研究・普及コーナー

このホームページにご意見のある方はこちらまで