森林の快適性評価
−林務課職員のアンケートから−


(森林科学研究所)井川原弘一


●はじめに
 近年,自然志向やアウトドアがブームとなり,森林内で余暇時間を過ごす人たちが増えてきました。この理由としては,森林の快適さに触れることで,心身のリフレッシュを図ろうとすることが考えられます。これを裏付ける資料として,総理府が行った森林と生活に関する世論調査によれば,森林を訪れた目的別では「風景・景観を楽しむため」「森林浴によりリフレッシュするため」「自然の中でのんびりするため」が全体の54%を占めています。
 このように,森林に対するニーズは,従来の木材生産機能からこうした保健休養機能の占める割合が,年々大きくなってきています。このため今後は,こうしたニーズにあった森林整備を進めていく必要があります。それには,快適性の高い森林の姿を明らかにすることが大切です。
 そこで,本研究では森林の専門家である林務課の職員を対象に,森林内の快適性に関するアンケート調査を行い,快適性の高い森林における重要な因子について検討しました。

●快適性の評価方法
 アンケートは,県内にある13県事務所の林務課に勤務する技術吏員および林務経験のある嘱託職員を対象に郵送で行いました。アンケートの回答者は103人でした。このうち記入漏れのある回答を除き,83人分のデータを有効回答としました。
 アンケートを行う上で,森林内の快適性を図−1のように階層化しました。「森林内の快適性」を構成する因子として「森林内の景観」「森林内の環境」「森林の自然性」の3つを階層1に設けました(以下;景観,環境,自然性とする)。また,森林整備による効果がすぐに期待できる森林内の景観について,さらに深い階層(階層2,階層3)を設けました。

 アンケートの方法は,まず,林内を撮影した写真10枚を見てもらい,これらの写真と今までの体験から,各自にとっての快適な森林をイメージしてもらいました。そして,イメージした森林をもとに,各階層内の因子同士を,どちらがどのくらい重要であるか答えてもらいました。最後に,イメージした森林の林分タイプと季節について答えてもらいました。
 これらの回答から幾何平均値を算出し,AHP(Analytic Hierarchy Process)を応用して森林内の快適性因子の重要度(ウエイト)を検討しました。

●快適な林内は?
 アンケート回答者がイメージした森林をまとめたものが表−1です。森林タイプ別では有効回答の約80%を落葉広葉樹林が占め,残りの森林はわずか2〜8%でした。ここでの常緑針葉樹林は,スギやヒノキの針葉樹人工林であると考えられます。

 そこで,落葉広葉樹林と常緑針葉樹林とで,因子のウエイトがどのように異なっているかについて検討しました。
 森林タイプごとの階層1の因子のウエイトを示したのが表−2です。因子のウエイトは階層内での重要性を示したもので,階層内のウエイトの和は,1となります。

 落葉広葉樹林,常緑針葉樹林とも,因子のウエイトは大きいものから景観,環境,自然性の順でした。このことから,快適な森林をつくるには,景観因子が重要であると考えられます。
 また,常緑針葉樹林では景観因子が0.48と大きいことから,特に重要な因子であると考えられます。落葉広葉樹林では,景観のウエイトが0.37と環境,自然性因子との差は,あまり大きくありませんでした。このことから,落葉広葉樹林では,景観以外の環境や自然性の因子も重要であることが考えられます。

●林内景観における重要な因子は?
 階層2,3の林内景観に関する因子のウエイトを示したのが,図−2です。階層1(表−2)では,落葉広葉樹林と常緑針葉樹林の景観因子のウエイトに差がありましたが,ここでは,比較しやすいように両森林とも1にしました。

 階層2では,因子のウエイトが大きかったのは,落葉広葉樹林,常緑針葉樹林とも見通しの良さでした。そのウエイトは,落葉広葉樹林が0.46,常緑針葉樹林が0.56とどちらも景観の半分を占めていることから,林内景観を整備していく上で,見通しの良さは,重要な因子であると考えられます。
 見通しの良さの下の階層をみると,常緑針葉樹林では立木密度が大きなウエイトを占め,景観全体の0.28でした。しかし,落葉広葉樹林では,立木密度,枝の高さ,下層の高さの間に大きな差はありませんでした。このことから,見通しの良さには,常緑針葉樹林では立木密度が,落葉広葉樹林ではこれら3つの因子が効いているものと考えられます。
 森林内の色合いは,落葉広葉樹林では0.28と2番目に大きな因子であるのに対し,常緑針葉樹林では0.19と大きなウエイトを占める因子ではありませんでした。さらに,この下の階層をみると,落葉広葉樹林では,花や実と葉の色が,常緑針葉樹林では,葉の色が大きな因子となることがわかりました。これは,林分を構成している樹種による差であると考えられます。
 樹木の姿は,常緑針葉樹林では0.25と2番目に大きな因子であり,落葉広葉樹林では0.26と森林内の色合いとほとんど変わらない因子でした。この下の階層をみると,落葉広葉樹林では木の大きさが大きく,常緑針葉樹林では木の大きさと幹の形が同じくらい大きなウエイトを占めていました。このことから,落葉広葉樹林では木の大きさが重要であるのに対し,常緑針葉樹林では木の大きさだけでなく,幹の形も重要な因子であると考えられます。

●おわりに
 本研究により,快適な森林を構成する因子の重要性について推測することができました。しかし,その指標となる数値については,まだわかっていません。そのため,今後は,この点について検討していきたいと考えています。
 最後に,アンケートに御協力いただいた方々に感謝いたします。


研究・普及コーナー

このホームページにご意見のある方はこちらまで