ナラ枯れ被害の新しい防除の試み

(岐阜県森林科学研究所)大橋章博


 カシノナガキクイムシによるナラ類の集団枯損被害(以下、ナラ枯れ被害)についてはこの紙面でも何度か紹介してきました。今回は、現在の被害状況と、新たな防除法開発への取り組みについて紹介します。

図-1 ナラ枯れ被害発生状況(2004年)
図-1 ナラ枯れ被害発生状況(2004年)

被害は長良川流域に拡大
 今までナラ枯れ被害は揖斐川流域に限られていました。しかし、被害はその後も拡大し、現在では揖斐川町を除く揖斐郡内の6町村、本巣市(旧本巣町、旧根尾村)、山県市(旧美山町、旧伊自良村)、関ヶ原町、垂井町、板取村で発生がみられます(図-1)。長良川流域の上流部に位置する板取村に被害地域が拡大したことから、今後はその下流域に被害が拡大していくことも予想されます。

防除は大変
 こうした被害の拡大を阻止するためには、何らかの対策をしなければなりません。しかし、現在確立されている防除法は、NCSくん蒸剤を被害木に注入する方法しかありません。この防除法は、高さ1.5mまでの樹幹部に、ドリルで深さ5cmの穴を10〜20cm間隔で千鳥格子状に空け、そこにくん蒸剤を注入して、材の中にいるカシノナガキクイムシを殺すという方法です。この方法はとても手間がかかり、傾斜が急な場所で実施するのはとても大変です。そのため、現場からはもっと簡単な防除方法の開発を求められていました。

もっと簡易な防除法
 そこで、より簡易な方法として、キクイムシ用殺虫剤と粘着剤を混合して幹に噴霧するという試みを今年度から実施しています。粘着剤を混合するねらいは2つあります。一つは、健全な木に噴霧すれば、幹がべたべたした状態になるため、これを嫌ってカシノナガキクイムシが穿孔しなくなる(予防効果)。もう一つは、被害木に噴霧すれば、粘着剤が穿入孔をふさぐため、孔内の環境が悪化し、幼虫が死亡する(駆除効果)、というものです。このうち、予防効果を検証した結果を紹介します。試験は2004年6月に、生きているナラ類の木に殺虫剤と粘着剤の混合液を地上高2mまでの樹幹に散布し、その後の被害状況を調査しました。その結果、対照区では被害率が29%であったのに対し、散布区では被害率は9%と予防効果が認められました。また、作業性も良く、くん蒸剤注入法は3人1組で36本/日しか処理できないのに対し、粘着剤処理では2人1組で120本/日も処理できました。しかし、今回得られた予防効果は、費用対効果の点から考えると十分とはいえません。処理木の被害状況をみると、カシノナガキクイムシの穿孔は薬剤が十分にかかっていない地際付近や2m以上の場所に限られていました。このことから、地際に丁寧に散布したり、噴霧器のノズルを延ばして噴霧範囲を拡大するなどの改良を加えれば防除効果を高めることができると考えています。

おわりに
 今回紹介した防除法は単木的な処理方法です。したがって、被害が拡大した地域では被害木が多すぎて、すべてに薬剤処理することは不可能です。そこで、今後は高解像度の衛星写真の解析から被害の先端地域を把握し、その地域を重点的に防除することで、被害拡大の阻止に繋げる研究を進めていこうと考えています。


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