下呂実験林で得られたスギの品種に関する情報
冠雪害及び凍裂の発生とスギの品種との関係

(岐阜県森林科学研究所)茂木靖和


【はじめに】

 岐阜県のほぼ中央に位置する下呂市にある下呂実験林は、別々の林分で行われた短期間の試験結果のつなぎ合わせで評価されることの多かった育林技術を同一林分で長期間に渡り検証することと、普及のための展示を目的に昭和38〜40年にかけて設置されました。

 森林科学研究所では、植栽時から現在までの約40年間、定期的に下呂実験林の中の固定試験地を調査し、スギの品種に関する情報をはじめ多くの情報を得ています。

 今回はこれらの中から、冠雪害及び凍裂の発生とスギの品種との関係を紹介します。

【スギの冠雪害】

 記憶に新しい平成14年1月、岐阜県下では美濃北部から飛騨南部にかけての普段比較的雪の少ない地域を中心に大雪による冠雪害が発生しました。下呂実験林では、特定の品種と過密状態で生育している林分で被害が発生しました。被害を受けた品種は30品種中5品種で、そのうち乗政(実生)とイトシロ(挿し木、写真1)で被害が多くみられました。被害形態は乗政とイトシロが幹折れ、幹曲がり、根返り、トヨハダ(挿し木)が幹折れと幹曲がり、雲通(挿し木)が幹折れ、松下1号(挿し木、写真2)が幹曲がりでした。なお、イトシロは過密林分で被害が集中して発生しましたが、適正よりやや過密状態の林分では冠雪害が発生しませんでした。また、イトシロの被害林分と同程度の過密状態であった味真野(実生)は被害を受けませんでした。

 これらのことから、この地域における冠雪害の発生と品種との関係が一部明らかになりました。

写真1 イトシロ(挿し木)
写真1 イトシロ(挿し木)
写真2 松下1号(挿し木)
写真2 松下1号(挿し木)

【スギの凍裂】

 凍裂とは冬期の低温により、樹幹が材内部から外周部に向かって縦長の割裂を生じる現象をいいます。凍裂材は割れやそれに伴う腐朽がみられ、木材価格を著しく低下させます。一般に、スギの凍裂は40〜50年生以上の壮齢、老齢木に多く発生するといわれています。下呂実験林で凍裂の発生した品種は、郡上(挿し木)、乗政(挿し木、写真3)、山武(挿し木)、八郎(実生)でした。また、各品種の最初に凍裂の発生した樹齢は、郡上が21年生、乗政が27年生、山武と八郎が30年生でした。

 これらのことから、品種や地域によっては20年前後から凍裂が発生し始めると考えられました。また、乗政は高い被害率であったことから、凍裂の発生しやすい品種があることがわかりました。

写真3 乗政(挿し木)
写真3 乗政(挿し木)

【おわりに】

 これまで、下呂実験林では柱材生産を目的として施業が行われてきました。したがって、本来であればそろそろ主伐を迎えてその使命を終える予定でした。スギ品種の適地域性についても、これまでの成長経過に、今回紹介した冠雪害や凍裂などのリスク要因を加味して最終評価をする予定でした。しかし、材価の低迷から今後の管理は大径材生産を目的とする長伐期施業への移行が予定されています。これにより、現在継続中の各種試験は延長され、下呂実験林からは、さらに多くの情報を得ることができると思われます。

 当所では、この下呂実験林で得られた情報を、今後も随時紹介していく予定です。


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