広葉樹造林地の下刈り1
下刈りのせいで山が悪くなる?

(岐阜県森林科学研究所)横井秀一


 ここ数年来、広葉樹造林の機会が多くなっています。それに伴い、針葉樹造林とは異なる広葉樹造林特有の問題が明らかになってきました。その一つに、広葉樹の造林地では下刈りによって造林木が被害を受け、造林成績が悪くなるという問題があります。
 そこで、今月と来月の二回にわたり、広葉樹造林地における下刈りについて考えてみたいと思います。今回は下刈りに起因する問題点をあげ、次回はそれに対処する方策としての下刈り省略の可能性を考えることにします。

■下刈りで造林が失敗?
 下刈りは造林木を育てるための大切な作業です。針葉樹か広葉樹かを問わず、ほとんどの造林地で下刈りが実施されていると思います。それが原因で造林成績が悪くなるとはどういうことなのでしょうか。
 問題は二つあります。一つは、下刈り作業中に発生する造林木の誤伐です。もう一つは、下刈り終了後に獣害が増加するということです。

■誤伐
 誤伐とは、保育の対象である造林木を下刈りのときに誤って伐ってしまうことを言います。広葉樹の造林地では、この誤伐が実に多く発生します(図1)。
 誤伐が多発する原因は、刈る対象である雑草木の中から残すべき造林木を瞬時に識別するのが難しい広葉樹造林地においても、造林木の識別が容易な針葉樹造林地での下刈り手法をそのまま取り入れてきたことにあります。

図1 混植造林地での誤伐の発生率
図1 混植造林地での誤伐の発生率
誤伐を受けたカツラの造林木
誤伐を受けたカツラの造林木

■下刈りが獣害を助長
 広葉樹の造林地では、カモシカやシカ、ノウサギによる造林木の食害がかなりの頻度で発生します。針葉樹の造林地も獣害を受けますが、広葉樹の獣害の受けやすさはそれ以上です。この獣害が、下刈りをすることで増えるようなのです(図2)。
 これは、下刈りによって周りの食物(雑草木)がなくなることと、それと同時に造林木が目立つようになることが原因だと考えられます。

図2 下刈りの有無と獣害の発生率
図2 下刈りの有無と獣害の発生率
ノネズミの食害を受けたケヤキの造林地
ノネズミの食害を受けたケヤキの造林地

■被害を防ぐには
 誤伐を回避するにはまず造林木を目立たせることが大切で、造林木にピンクや水色の標識テープを付けたり、大苗を植栽することが有効だとされています。また、下刈り機を用いずに手鎌によって慎重に作業することも効果的です。
 一方の獣害は、雑草木を潔癖に刈ってしまわないことである程度抑制することができると考えられます。
 これらのことから、手鎌を用いた坪刈りが両方の被害を抑えるのに最も有効な下刈り方法だと考えています。条件が許せば、ツリーシェルターも強力な武器になるでしょう。

 実は、もっと確実に下刈りに起因する被害をなくす方法があります。それは、下刈りをやめてしまうということです。それが可能かどうか、来月号で考えます。


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