クリの樹幹細り表をつくりました

(岐阜県森林科学研究所)横井秀一


 みなさんは、樹幹細り表というものをご存じでしょうか。樹木の幹は根元部分が最も太く、梢端に向かうにつれ細くなっていきます。これを樹幹の細りといいます。この細りを簡単に知ることができるように作られた表が、樹幹細り表です。

★細り表の用途

 細り表は、もともと林木の採材や材種別の材積の見積もりのために作られ、使われてきました。また、立木幹材積表を調整するためや、システム収穫表に対応させるために整備されることもあります。しかし、日本では細り表の整備がとても遅れています。整備されていてもほとんどは針葉樹人工林を対象にしたもので、広葉樹ではクヌギやミズナラについて、シイタケ原木生産に対応したものが作られている程度です。

★新しいクリの細り表

 今回、今までのものとはちょっと違う細り表を、クリで作りました。これまでの細り表は、胸高直径と樹高がわからなければ使えないものでした。同じ直径の木では樹高が高くなるほど細りが緩やかになるので、樹高は細りを決める大切な要素であることは間違いありません。ただ、樹高の測定は大変です。そこで、ちょっと考えてみました。

 細り表を収穫に関連したものに使うのであれば、収穫に関係した部分の細りがわかればいいはずです。広葉樹の場合、枝下の幹が主に収穫されるので、そこまでの細りで十分です。その部分は、ふつう樹高の半分以下のわずかな(?)部分です。なら、樹高がわからなくても使える細り表が作れるのではないか。こうしてできたのが、ここにお見せするクリの細り表です。

★細り表の見方と使い方

 まず、細り表の見方から説明します。胸高直径を基に上部の直径を知りたいときには、その胸高直径の行を横にたどり、目的の高さにあたる数値を読みます。例えば、胸高直径が28cmのときの高さ6.2mの直径は22cmになります。このとき注意していただきたいのは、胸高直径が通常の2cm括約であるのに対し、上部直径が切り捨てによる2cm括約(14cm未満は1cm括約)になっていることです。胸高直径は、輪尺で測ったときの数字がそれになります。上部直径が切り捨てによる括約なのは、木材市場の径級がそのように表示されているからです。また、ここに記されている直径は全て樹皮を含む直径ですので、その点にもご注意ください。

表−1 クリの細り表

 次に、細り表の使い方をいくつか紹介します。この細り表はクリの細り表なので、クリについてのみ当てはまると思って読んでください。

1.収穫予想

 標準地で胸高直径の毎木調査をすれば、現時点での収穫量を予想することができます。胸高直径ごとにどんな長さで採材するかを決めれば、材長と末口径とがわかります。調査のとき、ざっとでもよいので枝下高を見ておけば、どの長さまで収穫できるかの参考になるでしょう。後は、末口二乗法で材積を求めることができます。

2.伐期の決定

 目の前のクリの林をいつ伐採すればよいのか、迷うことがあるかも知れません。そんなときにも細り表が使えます。まずは、1の方法で収穫予想をしてみてください。このとき、末口径と材長にもちょっと注意してみてください。クリは、末口径18〜20cmと30cm以上の材に高値が付き、22〜28cmの材は少し値を下げます。また、3m材は2.1m材より高く、4m材はさらに高くなります。すなわち、クリの場合には全体でどれだけの材積が獲れるかということと同時に、その材のサイズが重要になるのです。したがって、クリに関しては伐期を先送りにして直径を太らせることが必ずしも有利にはなりません。このことに注意して、例えば後2cm太ったときとか4cm太ったときの収穫も予測してみて、最も有利な採材ができるときを見つけてください。もちろん、市場価格の変動も伐期を決める重要な要素になります。それについては、この「岐阜県の林業」の最後の方にある木材市況にクリの市況が載っていますので、それが参考になるでしょう。

3.目標林型の設定

 どんな林をつくるときも、その林に何を期待するのか、そのためには将来どのような姿の林にしたいのか(これを目標林型といいます)が見えていると、いつどんな施業が必要なのかを考えるのが容易になります。目標が具体的であれば、保育しようとする熱意も涌いてくるでしょう。そんなときにも細り表は役に立ちます。例えば、クリの4m材が二玉採れるような林に育てたいとします。そのためには、まず枝下高が8m以上になっていることが必要です。先ほど述べた高値の付く末口径と高さ4.2mと8.2mの上部直径とを見比べると、胸高直径22〜26cmあたりで高く売れる材が採れそうです。これで、目標が見えてきました。ミズナラのような大径木を目標とする樹種に比べて、クリはやや強めの競争状態を保ちながら育てた方がよさそうなことがわかります。

 今できている細り表は、クリだけです。これ以外の樹種、例えばミズナラやホオノキ、ブナなどについては、現在、細り表を作るための調査を行っているところです。もう少しすれば、それらの細り表もお見せすることができると思います。


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