スズメバチってどんなハチ?
−あなたの誤解はらします−

(岐阜県森林科学研究所)大橋章博


いかにも悪そうな面構え
いかにも悪そうな面構え

はじめに
 この秋もスズメバチによる刺傷被害が幾度も新聞にとりあげられ社会の関心を集めています。ハチ刺されによる死者は毎年30〜40人にのぼっており、熊や毒蛇による死者の数をゆうに上回っています。このためスズメバチは「南のハブ、北のヒグマをこえる危険動物」とまで言われています。
 近年、スズメバチ被害は山間部だけでなく都市部でも増加しています。この原因として、丘陵地の宅地化に伴いスズメバチと人間の生活圏が重なったことや、衛生害虫に対する住民の意識が変化し、不快感や恐怖心を抱く人が増加したことなどが指摘されています。
 このように、スズメバチと遭遇する機会は山で働く人以外でも増加しつつあります。スズメバチの被害から身を守るには、スズメバチについて正しい知識を持つことが大切です。
 そこで、巷に流れているハチにまつわる誤解を解きながら話を進めていこうと思います。

名古屋市におけるスズメバチ類の年別駆除件数の推移(名古屋市生活衛生センター調べ)

誤解1 どんなハチも人を刺す
 ハチの仲間はこれまで日本から約五千種が知られています。このうち、人間を攻撃したり、刺して問題となるのはスズメバチ、アシナガバチ、ミツバチ、マルハナバチの仲間で、いずれも社会生活を営むハチです。これらをすべてあわせても数種に過ぎません。クマバチやベッコウバチなどのように単独生活をするハチは手で捕まえたりしない限り人を刺したりすることはありません。

誤解2 ハチは一度刺すと死ぬ
 昔から「蜂のひと刺し」と言われるように、一度しか刺さないと思われがちですが、これはミツバチに限った話です。ミツバチの毒針は先端に「かえし」がついているので一度刺したら抜けない構造になっています。刺した針は腹部の末端もろとも敵の体に残るためハチはすぐに死んでしまいます。しかしスズメバチの毒針はこのような構造をしておらず,何度でも刺すことができます。

誤解3 ハチ刺されにはアンモニアが効く
 根強く信じられていますがこれは全くの誤りで、アンモニアを塗っても全く効果がありません。もし不幸にもハチに刺されてしまったら、患部を水で洗った後、冷やします。痛みの緩和には抗ヒスタミン軟膏の塗布が効果的です。

誤解4 人が死ぬのはハチ毒のせい
 ハチ毒にはたくさんの成分が含まれており、激しい痛みや腫れをおこしますが,1,2ヶ所刺されたくらいの毒量では命に別状ありません。
 スズメバチによる死亡はほとんどが,アレルギー性のショックによる窒息死です。ハチ毒アレルギーを持つ人は,過去に刺されたとき体内にできた抗体が,2度目に入ったハチ毒に過剰に反応するため急激なアレルギーショックを起こす可能性があります。
 刺された後で次のような症状が出たらアレルギーショックである恐れが強いのでただちに医師の手当が必要です。全身のじんましん,腹痛,めまい,意識がもうろうとする,呼吸困難など。アレルギーショックで死亡する場合は,刺されてから1時間以内であることが多く,一刻も早く処置しなければなりません。

誤解5 2回以上刺されると危い
 いま述べたように,これは全くの誤りではありません。しかしだれもが花粉症にかかるわけではないのと同様,ハチ毒アレルギーを持つ人はごく一部です。通常体質の人であれば,刺されるほど症状が軽くなることさえあります。最近では血液検査でハチの種別にアレルギーの有無を調べることができます。ハチに刺されたことのある方は一度調べてみてはいかがでしょうか。

誤解6 虫よけスプレーをつけておけば安心
 虫よけにはスプレータイプや直接皮膚に塗るタイプがありますが,いずれも蚊など吸血性の虫を防ぐものです。スズメバチの場合、巣を守るために命がけで刺しに来るので、こんな時には虫よけは全く効果がありません。
 もし、スズメバチがそばに寄ってきたときは,速やかに、かつ静かに後ろに逃げることです。けっして手などで払ったりしてはいけません。

駐車場にかけられたスズメバチの巣
駐車場にかけられたスズメバチの巣

誤解7 巣は翌年また使われる
 巨大な巣からは信じられないかもしれませんが,スズメバチの巣は1頭の女王バチがその年の春に作り始めたものです。どんなに大きな巣でも秋になると空になり,翌年再利用されることはありません。

おわりに
 スズメバチというとどうしても恐ろしさばかりが強調されてしまいがちです。しかしその一方で、スズメバチはケムシやコガネムシ、マツノマダラカミキリといった農林業の害虫に対する有能な天敵でもあることを忘れてはいけません。
 私たちの生活に身近な存在となったスズメバチと、今後どのように共存していくかは、これから考えていかなければなりません。


参考文献:「スズメバチに関する七つの誤解」牧野俊一(1993)九州の森と林業:第25号.


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