IT時代の収穫予測
−システム収穫表について−

(岐阜県森林科学研究所)大洞智宏


はじめに
 システム収穫表と言われて「ああ、あれか。」とすぐに思い浮かぶ人は少ないのではないでしょうか。全国的にみてもシステム収穫表が完備されている都道府県は少なく、岐阜県にもまだありません。しかし、林業の長伐期化や多様化、パソコンの普及などにより、その必要性が喚起されており、研究開発へ取り組む都道府県は多くなっています。

システム収穫表とは
 システム収穫表とはどんなものなのでしょうか。一般的には「様々な施業体系のもとでの直径分布などの情報をコンピューターを用いて予測するシステムの総称である。」といわれています。
 では、システム収穫表とこれまでにあった収穫表や林分密度管理図との違いはどこにあるのでしょうか。従来の収穫表では、施業方法は固定されており、林齢をもとに樹高・胸高直径の平均値を表から見つけだす方式でした。また、林分密度管理図は、下層間伐にしか対応できず、樹高などの情報についても収穫表と同じく平均値や総量に限られていました。これらに対して、システム収穫表では、経営目標に応じた施業方法の変更に対応することができます。また、対象林分の胸高直径などの分布情報や統計量を知ることができます。

シルブの森
 現在、全国で十数個のシステム収穫表が開発されています。ここでは、その中の一つ「シルブの森」について少しご紹介します。
 このシステムは、京都府立大学教授の田中和博先生が開発したもので、同齢単純林を対象としています。現在の直径階ごとの立木本数と樹高曲線を入力することによって、その林分の将来の直径階分布を予想することができます(図ー1)。

図ー1 入力画面
図−1 入力画面

これは、現在の林分の状況がわかれば、数十年後の同じ林分に、どんな径級の木が何本存在するか、ということを予測することが可能だということです。また、間伐などの作業を行うことによって直径成長にどんな影響がでるかについても予測することができます。また、細り表がついているので、市場の木材価格を入力しておけば、立木一本全体の価格を計算することができます。

図ー2 胸高直径の比較
図−2 胸高直径の比較

 これらを利用して、間伐方法を変えることによって将来の材積や胸高直径がどれだけ変動するのかを一つの画面の上で比較することができます(図ー2)。上述してきたような機能を利用することによって、施業管理のシミュレーションを簡単に行うことができます。また、経営方針や生産目標に関する意志決定の基礎資料とする事もできます。このシステムは、表計算ソフトとして普及しているExcelで作られています。このため特別な動作環境がいらず、操作が誰にでも簡単に行うことができます。また、予測結果などを自分でグラフや表に再編集することができます。 
 「シルブの森」は現在、富山県でタテヤマスギ、ボカスギを対象としたシステム収穫表として実用化されつつあり、森林組合やAGを対象に使用方法等の説明会が開催されています。

課題
 岐阜県では、この「シルブの森」のシステムを用いて東濃地域のヒノキのシステム収穫表を作成しようとしています。
 システム収穫表を作成する上で最も大切なのが樹木の成長のモデル式の算出です。胸高直径や樹高の成長状態がうまくモデル化できればそれだけ正確に今後の成長を予測する事ができます。一般に成長のモデル式は、固定試験地での長期間にわたる成長の観測データや樹幹解析の資料などから算出されます。しかし、岐阜県には、若齢から高齢にかけての長期間にわたる林分の成長状態を観測したデータがありません。このため、樹幹解析試料や現在の林分収穫表の調製に用いられた調査データから、成長のモデル式を算出しようと考えています。
 現在、森林科学研究所では、この成長のモデル式作りに取り組んでいます。データの収集のため、本年度も数ヶ所で樹幹解析用の試料を採取する予定です。システム収穫表の精度をあげるためには、たくさんのデータが必要になります。もし、高齢級のヒノキを試料用として提供してもらえるお話がありましたらぜひご一報ください。

終わりに
 IT時代の収穫表ということでお話ししてきましたが、結局もとをたどれば地道なデータの集積が収穫表完成のカギになります。また、完成したシステム収穫表を使いやすくするためには利用する皆さんの意見が重要になってきます。今後様々な形でご協力お願いする事があるかもしれません、そのときにはよろしくお願いします。


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