広葉樹林の間伐効果を再認識
−間伐によって木は太くなるのか−

(森林科学研究所)横井秀一


 県内で広葉樹林の間伐が行われるようになって、久しくなります。果たして、その効果は上がっているのでしょうか。私たちは、なかなかそれを目で確認することができません。効果がわからなければ、やったことがむなしく思えたり、次に向けての意欲が湧かなくなったりするかもしれません。間伐とは効果があるものかどうか、ぜひとも確かめておきたいところです。
 そこで、広葉樹林を間伐するとどんなことが起こるのか、古くからある間伐試験地での最新の結果を紹介します。

◆試験地の紹介とこれまでの結果
 当県には、1974年に設定した広葉樹林間伐試験地(荘川村一色)があります。この試験地の林相は、クリやホオノキなどいくつかの樹種が混生する広葉樹二次林(設定時で26年生)です。試験区の構成は、間伐後の立て木の密度が300本/ha、400本/ha、500本/haになるようにした間伐区と全く手を入れていない無間伐区とからなっています。間伐区では、立て木以外の立木が全て伐採されています。

 この試験地で得られた結果は、これまでにもいくつか報告されています。それを要約すると、以下のとおりになります
 1.間伐区の方が平均直径成長量が大きかった。
 2.そのため間伐区の方が収穫できる材積が大きそうだ。
 3.その上伐期が短縮できそうだ。
 4.しかし、間伐区では後生枝が発達した。
 5.総合的にみると、この中では500本/haの密度が良さそうだ。

 これらのことから、間伐が立て木の直径成長にプラスの効果があることは、どうやら正しそうです(後生枝の問題については、今回は触れません)。しかし、これはあくまで一つの事例にすぎず、これだけでは広葉樹林の間伐効果を云々するには弱すぎます。間伐効果をきちんと示すためには、もう少し普遍的な説明、─これまでのような平均値や合計値ではなく、もっと基本的な生物現象からの説明─が必要です。そこで、今回はこれまでとは見方を変えて、試験区にある木1本1本が24年間でどのように成長し、間伐がそれにどう影響したかをみてみました。

◆樹冠の発達→直径成長=間伐効果
 結論から述べます。試験開始後24年間で調査木の胸高直径は、1.3〜20.8cm太くなりました。平均年輪幅に直すと、0.27〜4.33cmです。胸高直径成長量は間伐区と無間伐区とで差があり、間伐区の方が成長量が大きい個体が多くみられました。しかし、間伐区の中では差がありませんでした。また、その成長量は樹冠の発達と密接な関係があることがわかりました。24年間に樹冠が発達した個体ほど直径も太くなっていたのです。そして、その樹冠の発達に間伐が影響していると考えられました。

 具体的に説明しましょう。図1は、24年間の樹冠の発達と胸高直径成長量の関係を示したものです。樹冠の発達は、樹冠幅(樹冠を真下から見上げたときのその直径)の2乗に樹冠長(樹高から枝下高をひいたもの)をかけた値(樹冠の体積を指標する)の変化で代用しました。これをみると、樹冠が発達したものほど胸高直径成長量が大きくなっています。また、無間伐区のデータは図の左下に集中しており、無間伐区では樹冠の発達が悪く、直径成長量が小さいことがわかります。ただし、図の左下の部分には間伐区のデータも無間伐区のデータと重なるように分布しており、間伐区の立て木全てが良い成長をしたわけではないこともわかります。

 この図は、二つのことを示唆しています。一つは樹冠の発達と直径成長の間にある基本的な関係には間伐の有無が影響しないこと、もう一つは間伐区には樹冠が発達した個体が多いことです。前者は、樹冠の発達=葉量の増加→同化量の増加→蓄積の増加(直径成長)という、そして後者は、間伐=樹冠同士の競争の緩和→立て木の樹冠の発達(図2)という生物現象として捉えることができます。この二つのことを合わせると、広葉樹林の間伐が直径成長の促進に効果があることが説明できます。
 これで、広葉樹林の間伐効果は確認できたと思います。ただし、間伐効果の程度は、同じ試験地の中でも個体によって異なります(図1)。後生枝の問題も含め、間伐効果は正しく間伐が行われて初めて発揮されるものだと言えるでしょう。


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