長伐期施業の効果
─環境面・林業面からの紹介─

(森林科学研究所)大洞智宏


●はじめに
 近年、森林に対する国民の関心は、森林の持つ公益的機能、特に環境面に目が向けられています。このため、環境、保健、教育林としての利用や生物の多様性等の森林生態に関する解明が求められています。このように森林を取り巻く環境が大きく変化しているため、スギ、ヒノキ人工林でも木材生産以外の機能発揮が求められています。
 しかし、林業を取り巻く状況は厳しく、スギ、ヒノキの材価の低迷が続いています。このため、林業を活性化させ、森林の公益的機能を発揮させる技術の開発が急務となっています。

●長伐期施業とは
 このような状況を打破するひとつの方法として、長伐期施業が注目されています。
 これは、大径材生産を目的として、伐期を七十から八十年以上に設定する施業で、従来行われている短伐期施業に対比される言葉です。長伐期施業は、材価の安定、労働力の軽減ができることや、植生などの環境の保全に果たす役割に期待が寄せられています。
 現在、岐阜県には民有林が六十六万八千ヘクタールあります。スギ・ヒノキなどの針葉樹人工林は、約四十三%で、その大部分を四十年生以下の比較的若い森林が占めています(図―1)。

 このため、林業の低迷が続き伐採量が減少すれば、結果的に長伐期林分が増加していくことが予想されます。
 ここからは、この長伐期施業を導入することによって、期待される効果について環境、林業の両面から紹介します。

●環境面では
 一般に十年生から三十年生の林分では、林冠の閉鎖が強くなり、下層の植物が極めて乏しくなります。このような光景は人工林でよくみられ、こうした林分では雨水によって表土が流されるため、水土保全機能の高い森林になりません。しかし、間伐や枝打ちを適切に行うことによってこのような状態を改善することができます。これを裏付けるように、手入れの行き届いた林分では下層植生が豊かであるのに対して、放置されている林分では下層植生が貧弱なものになります(図―2)。

 しかし、四十年を過ぎた林分では、競争による自然枯死などで、林冠にすき間ができて林内が明るくなり、下層の植物が繁茂してきます(図―3)。また、それにともない土壌構造も発達してきます。
 このようなことから長伐期施業を行っている林分は、下層植生や土壌構造が発達した状態が長く維持できるため水土保全機能や植物の多様性を維持していくのに有利だと考えられます。

●林業では
 長伐期施業は、これまで四十から五十年で行っていた主伐を八十年以上に延ばすため、収穫の時期が遅くなります。しかし、積極的に間伐を行うことによって継続的な収入を得ることができます。これは、長伐期施業の特徴の一つで、材価の高い大径木の間伐を行うため安定した収入を得ることができるからです。
 もう一つの特徴は、伐期を長くすることによって、一伐採周期の中の植栽、下刈りなどの更新、保育作業の比率を小さくすることができることです。例えば、九十年の長伐期施業を一回行うのと、四十五年の短伐期施業を二回行った場合を比較すると、植栽、下刈りなどの更新、保育作業は、短伐期施業では二回必要です。しかし、長伐期施業ではこれらの作業が一回ですむので、単純に考えると経費が二分の一ですむことになります。また、前述したように長伐期施業では、間伐材が大径材であるため高値で取り引きされます。このため、最終的には短伐期施業の二回分以上の収益を得ることが可能であると考えられます。
 しかし、長伐期施業には良いことだけでなく、リスクもあります。立木の状態が長期間にわたるため、凍裂や病虫獣害の発生する確率が高くなります。このため、せっかく大径木に育てても、割れや変色などで材価が安くなります。こういった被害は岐阜県の各地で発生しています。地域によっては長伐期施業の導入によってこのような被害が多発する事が予想されます。このため、長伐期施業に適した条件を明らかにしていく必要があります。

●おわりに
 現在、森林科学研究所では、こうしたことを明らかにするために国の大型プロジェクト研究「長伐期施業に対応する森林管理技術の開発」に取り組んでいます。今後現地調査などでご協力をお願いすることがあるかもしれません。その節はどうぞよろしくお願いします。


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