多雪地帯に植栽された広葉樹
〜それでも広葉樹は生きている〜
(寒冷地林業試験場)水谷嘉宏
岐阜県の林業 1997年4月号掲載
■はじめに
広葉樹造林に対する関心が高まり、「自分の山にも広葉樹を植えてみようか」とお考えの方がみえると思います。でも「広葉樹」という名前の木はありません。植栽に先立ち、まず樹種を決める必要がありますが、選択を誤ると失敗の原因の1つとなります。荘川広葉樹総合実験林には8種の広葉樹を混植した試験区があります。植栽後6年が経過しましたが、研究員の熱い視線にもかかわらず、1.5mを越える積雪などが原因となり成績は好ましくありません。しかし、樹種ごとに見てみると被害の実態や成績に違いが現れていますので、その特徴について紹介します。なお、当試験区で行っている保育は下刈りのみです。樹種別の植栽本数、消失率、平均樹高を表1に示します。
表1 植栽木の生育状況
樹種 植栽本数(本) 消失本数(本) 消失率(%) 平均樹高 (最小値〜最大値)(cm) トチノキ 33 12 36 54 (13〜94) ケヤキ 34 3 9 204 (70〜335) ホオノキ 34 0 0 182 (20〜370) クリ 36 8 22 176 (50〜330) シナノキ 27 1 4 127 (37〜220) キハダ 36 7 19 128 (27〜230) ミズナラ 30 12 40 105 (50〜192) ミズメ 18 10 56 154 (115〜200) ■トチノキ
消失率は高く、平均樹高は最低です。今年になって地際から萌芽により再生しているものもあります。根元径で4cmを越えたものがネズミに地中部までかじられ切断されていました。ネズミによる強度の食害が、消失する原因の一つとなっているようです。曲がり、枝抜け、幹折れなどが頻発しており、まともな樹形のものは1本もありません。(写真-1)■ケヤキ
平均樹高は最も高くなっていますが、形質はよいとはいえず、途中から箒状となったり、根本曲がりや斜立しているものが多くみられます。(写真-2) 春先には根元から枝先まで広い範囲でネズミの食害を受けていました。なお、ケヤキで必ず話題になるのが赤ケヤキと青ケヤキの識別法ですが、他県の調査報告によれば、「外形から識別することはできない」ということです。■ホオノキ
非常に成長のよいものから今年になって地際から萌芽により再生したものまであり、優劣の差が非常に大きくなっています。しかし、成長差にかかわらず根元曲がりや幹曲がりが少なく、通直な樹形のものが多いことと、消失したものがないことが特徴です。主軸が折れても、新しい主軸が脇からすぐに立ち上がり、回復の早さがいかがえます。(写真-3)■クリ
消失率は比較的高いのですが、成長は良好なほうです。通直に伸びているものがある一方で、斜立したり根元曲がりしたものや箒状の樹形となったもの幹の途中で折れたものも見られます。■シナノキ・キハダ
平均樹高は低いほうで、樹形も良くありません。シナノキは消失率は低いのですが、根元から株立ちしたり、盆栽状の樹形となったものが多くなっています。(写真-4)
キハダは幹折れしたものが多く、かろうじて生きている状態のものが目立ちます。(写真-5)■ミズナラ・ミズメ
消失率が高く樹形も良くありません。残ったものには幹折れや根元曲がりしたものが多く見られます。なお、ミズナラの消失木12本のうち9本が1996年春にネズミに根元をかじり倒されたものであり、この年に被害が集中していました。
写真1 トチノキ
写真2 ケヤキ
写真3 ホオノキ
写真4 シナノキ
写真5 キハダ■おわりに
当試験地は地形が平坦なため、雪圧の影響は傾斜地と異なっており、枝抜けや幹折れなどの雪害が頻発しているようです。また、十分に注意を払っているのですが、誤伐も若干発生していました。
しかし、このような悪条件の中でも、植物は種の特徴に応じて生き残りの道を模索しているようにみえます。積雪深、獣害をもたらす動物の生息状況、地形や土壌条件などを適切に把握することが、やはり広葉樹造林の第一歩のようです。
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