ホンシメジの試験管内発生について

(寒冷地林業試験場)水谷和人


 我が国には数千種のきのこが生育していますが、その約半数が菌根菌であると言われています。これまで菌根菌の人工栽培(人工的な環境下でのきのこ発生)は困難とされてきました。
 今回、全国で始めてと言う訳ではありませんが、菌根菌であるホンシメジが試験管内できのこを形成しましたのでその方法等について報告します。

■腐生菌と菌根菌
 きのこは、その生活様式から大きく腐生菌と菌根菌に分けられます。
 腐生菌は木材や落葉などを栄養源としており、これらを自ら分解し栄養として取り入れながら生活しています。現在、ス−パ−などで販売されているシイタケ、ナメコ、エノキタケなどのきのこは、一部の天然物を除いてそのほとんどがビンや原木などを利用して施設で栽培されたものです。これら人工的に栽培されているきのこはすべて腐生菌です。
 これに対して、菌根菌は生きた樹木の根にくっついて樹木から栄養を得ながら生活しています。菌根菌に属するきのこは人工的な栽培が困難なため、現在のところ天然物を採取するしか方法がありません。マツタケ、ホンシメジ、コウタケ、クロカワなどの菌根菌に属するきのこが、秋になると非常に高い価格で市場に出回るのはこのような理由によります。

■ホンシメジについて
 ホンシメジは秋にアカマツやコナラの林で発生し、昔から「香りマツタケ、味シメジ」と言われてきたとおり、マツタケと同様に我が国を代表する食用のきのこです(図1)。
 傘は2〜8cm、柄は3〜8cmで主に株状になって発生します。傘の色は一般にねずみ色ですが、白色や茶色っぽい個体もあり変化に富んでいます。柄の下部は徳利状にふくらんでいることが多く、これを大黒様の腹に見立ててダイコクシメジと呼ぶこともあります。
 なお、ス−パ−などで売られている「○○シメジ」は正式にはヒラタケ、ブナシメジなどの人工栽培が可能な腐生菌であり、ここで言うホンシメジとは全く別の種類です。
 ホンシメジの場合、前述したように菌根菌に属するきのこのために人工栽培は困難とされてきました。これまでに試験管内などの人工的な環境下できのこが発生した例は2〜3に過ぎません。


図1 天然のホンシメジ

■試験管内でのきのこ発生の試み
 当場では平成3年度からホンシメジの研究を開始し、主に林内での生態を調べるとともにきのこの収集もあわせて行ってきました。
 現在は昨年の秋に岐阜県北部の飛騨地域で収集した20株を使用して試験管内でのきのこ発生を試みています。現在行っている方法は図2に示したとおりです。基本的には他の栽培きのこで行われている方法に準じていますが、この中で特徴的なことは次の通りです。

・種菌を自分で作成したり、試験的な栽培であることから容器を試験管にして培地重量を少なくしたりしていること。
・通常行われているきのこ栽培では、培地材料をオガコ主体とし、米ぬかやふすまなどを添加したものであるのに対して、ここでは麦主体(既に滋賀県森林センタ−が紹介)としていること。

図2 当場で行っているホンシメジ栽培の方法
・秋、山で自然発生しているホンシメジを採取した。
・採取したきのこの一部を切り取り、寒天培地上で菌糸を育てる。
・4×10cmの試験管に麦を主体とした材料を50g入れ、寒天培地上の菌糸を植え付ける。
・20℃で約3ケ月間培養する。
・温度を15℃に下げる。

 ホンシメジの発生は温度を20℃から15℃に下げた後、約1ヶ月後に認められました(図3)。現時点では供試したすべての株からきのこが発生する訳ではありません。
 当初、試験管内できのこの発生がみられたのは20株のうち3株だけでした。その他の株は原基ができたもののきのこまで成長しなかったり、原基すら全くできませんでした。また、発生したホンシメジも一試験管当たり約2g程度で、大きさは小指の先ほどの小さなものでした。  最近は3株以外にもきのこ発生を確認できるようになり、発生量も増えました。現時点での最高の発生量は培地50g当たり11gで、培地重量当たりの収量は他の栽培きのこと同程度まで達しています。


図3 試験管内で発生したホンシメジ
■今後の研究について
 先に述べたように、ホンシメジの試験管内での発生は既に2〜3のグル−プが報告しています。これらのグル−プは現在経営的栽培に向けた研究を精力的に進めていると考えられます。今後、当場でもきのこの発生しやすい優良系統の選抜を繰り返し行うとともに、培地材料および培養・発生条件についても継続して検討を行い、経営的栽培化に向けて取り組んでいきたいと思います。
さらに、ホンシメジなどの菌根菌は樹木に水や無機栄養を供給して健全な森林の育成にも一役買っています。しかし、現状ではきのこと樹木の関係についてはわからない部分が多くあります。
 今回、試験管の中できのこが発生したという事は人工的な環境下でホンシメジの一生を年に何回も確認できるという事です。このため、今後はホンシメジの生活の仕方など基礎的なことについても詳細に調べたいと考えています。このことにより樹木との関係もしだいにわかってくるのではないでしょうか。


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