カツラ、クリ、ケヤキの約10年生人工林の成長

(育林科)横井秀一


 最近、広葉樹の造林に対する関心が高まっています。ところが、広葉樹造林に関する確立された施業技術というものは、現在のところまだありません。その理由の一つとして、広葉樹造林の事例が少なく、施業技術の検討に必要な情報が極めて不足しているということがあげられます。そのため、当場でも広葉樹の造林試験に取り組み、情報の収集に努めているところです。その中から今回は、約10年生のクリとケヤキ、カツラの若い造林地を調査した結果について紹介します。

1.造林地の概況とこれまでの施業
 この造林地は、大野郡荘川村六厩にある荘川広葉樹総合実験林の中にあります。海抜は約1,000mで、斜面の向きは南南西、土壌型はおおむねBD(d)型です。斜面の下から順に、カツラ、ケヤキ、クリがそれぞれ4,000本/haの密度で造林されています。植栽の時期は、カツラとケヤキが1985年の春、クリが1985年の秋で、調査を行ったのが1995年6月ですのでカツラとケヤキが10年生、クリが9年生になります。
 植栽後の管理は、下刈が1989年までの毎年の5回(クリは4回)、雪起しが1991までに5回行われており、よく手入れされた造林地だといえるでしょう。また、カツラは1987年の春に補植が行われています。

2.広葉樹の造林木は大きさがばらつく
 まず、造林木の大きさについてみてみましょう(図−1、図−2)。胸高直径、樹高ともにクリが最も大きく、次いでカツラが大きくなっていました。クリの成長がこのように良いのは、土壌条件がクリに合っていたため成長が速いという樹種本来の特性が発揮できたからだと考えられます。反対にケヤキの成長が今一つなのは、この造林地が土壌的にみてケヤキの適地ではなかったからでしょう。
 これらの図からは、もう一つおもしろいことが読みとれます。どの樹種も分布の範囲がとても広く、成長が良い個体と悪い個体との差が激しいということです。例えばクリの胸高直径では、最も大きいのが9cm、最も小さいのが3cmと、その差は6cmもあります。スギやヒノキの造林地では、造林木の大きさにこれほどの差が生じることはまずありません。造林木の大きさがばらつくというのは、広葉樹の特徴といえるでしょう。

3.大きくなる木は樹冠も大きい
 それでは、なぜ造林木にこのような成長の差が生じるのか考えてみましょう。樹木が成長するためには葉による光合成が必要で、その葉を付けているのは樹冠です。そこで、樹冠の大きさ(水平面に投影したときの面積)を調べてみました(図−3)。すると、どの樹種も直径と樹冠の大きさとには比例関係が認められました。そして、図では示していませんが直径と樹高にも比例関係がみられたことから、大きな造林木ほど大きな樹冠を持ち、かつその樹冠が高い位置にある(=樹高が高い)ということがわかりました。
 このことから、造林木の成長の差は樹冠の拡張から説明できそうです。樹冠の競合で優位に立った造林木は樹冠を広げることができ、それに応じて樹体も大きくなります。一方、劣勢になった造林木は、優勢木に被圧され樹冠を広げることができず、樹体も大きくなれません。こうして生じた優劣の差は、年数を経るにつれ大きくなるものと考えられます。それに加え、造林木の成長とともに優勢木どうしでも新たな競合が発生し、それを繰り返すうちに林分全体での造林木間のバラツキが大きくなるものと推測できます。

4.スタートでの出遅れがその後も尾を引く
 最後になりますが、優勢木と劣勢木とに分かれる原因について一つ紹介したいと思います。図−4には、カツラの樹高成長の経過を健全木と被害木(ノネズミによる根元の食害)、補植木とに分けて示しました。健全木に比較して、被害木や補植木は成長が劣っていることがわかります。植栽後3年目の時点で既に大きさの順位がほぼ確定されています。このことから、初期にアクシデントがあった造林木は、その後の成長もあまり期待できないことがわかります。樹冠が単に競合するだけではなく、アクシデントも劣勢木になる原因であると考えられます。

 広葉樹は再生力が強いため、被害を受けても根元から新たに萌芽したり芯変わりをしたりして成長を続けますが、健全な競合状態を維持するためには予測される被害に対する予防が必要でしょう。また、補植する苗木は周囲の造林木と同じくらいの大きさでなければ補植の効果が期待できないと考えられました。


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